ポイポイと部屋のものを入れていく。服に、写真に、化粧品。あっという間にトランクがいっぱいになってしまった。閉まらない。


「マルコ、マルコ、手伝って」

「おう」


私の支度をずっと後ろで見ていたマルコはよっこらせと腰を上げた。


「ぎゅってね、やっちゃってください」

「いいけどよい。こんなに膨らんでちゃ無茶だい」

「もー、諦めちゃだめだよ」

「お前ねい…」


私はトランクの蓋を抑えた。ほら、早く手伝って。私が急かすとマルコは呆れたように笑いながら、結局一緒に押してくれた。二人でギュッギュッと上から力を込める。最後にギューッと体重をかければ、トランクは何とかその口を閉じてくれた。


「ほらよい」

「ありがと」


トランクを床に下ろし、私たちはベッドに並んで座った。


「なあ」


マルコとの距離が近い。じっと見つめられ、私は急に気恥ずかしくなった。顔が赤らむ前に目を逸らそうとして、一瞬その瞳の色を確かめてから、やめた。


「マルコ?」

「本当は、行ってほしくないよい」


拗ねる子供のような声色がして、ぽすりと肩に乗る重み。


「行くなよい」


恋人の肩口に顔を埋める姿は白ひげ海賊団の一番隊隊長のものとは思えない。それがあまりに微笑ましく、思わず笑みがこぼれた。


「ふふ。マルコ、子供みたい。私がいなくなるのが、そんなにさみしい?」

「言わせんな、よい」


たくましい腕が回ってきて、それは私をしっかりと抱き締めた。弱々しい声とは裏腹な力強い抱擁に、私は笑顔になる。

こんな風に必要としてくれるのが嬉しかった。人間が人間を求めるのは、必要とされたいからだと聞いたことがある。誰かに求められたいから誰かを求め、ひとりはさみしいから、こうして誰かと抱き合って、熱を分かち合うのだそうだ。

マルコ、と呼びかければ肩の重みはすうっと消えた。


「ねえ、だいじょうぶ。絶対帰ってくる」

「ああ………」

「私にはマルコしかいないからね」


だから、と続くはずだった言葉は厚い唇に捕らわれた。深く愛(いつく)しむように交わされる口づけ。離れていく熱い眼差しに思考がとけそうになった。


「そんなの、俺もだよい」


綻びた優しい目元に、今度は私がキスをする番だった。


/いつくしむ
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