年をとったのかもしれない。と言えるほど生きてきたわけでもないのだけど、私はちょっとした弾みで簡単に泣いてしまうのだ。それはもう故障しているとしか言い様がないほどに。
「それで?」
「だからね」
ローは外科医であり、私の恋人だ。精神科医でなくとも、多方面の医学知識に富んだ彼なら、この病気が一体何なのか解明できるかもしれない。それに、この症状は彼といると頻繁に起きるのだ。
感情の起伏が波のように押し寄せてきて、ぐちゃぐちゃになる。嬉しいのか悲しいのか分からなくなって。
「泣きたくなるの」
胸を締め付けるこの感情が解らない。さっそく瞳に薄い水の膜が張って、目の前のローがゆるりと歪む。
「ふふふ、実はローが私を泣かせてるのかもね」
「俺は泣かせてねェ。お前が勝手に泣くんだろ」
「だって、幸せなんだもん」
笑いかけられるだけで、手を繋ぐだけで、話すだけで。愛しくて、切なくて。心が震える。
本当は答えなんて分かっていた。病気でもなんでもない。強いて言うなら、人より過敏に感受性が働くだけ。
「じゃあ、好きなだけ泣けばいい」
優しくされるだけで、認められるだけで、胸がいっぱいになって、目から溢れる。そんなどうしようもない涙だけど。
「お前の涙は嫌いじゃない」
受け入れてもらえるなら、私は堂々と泣こう。
「私が泣いたら、その胸、貸してね」
お願いしますと小さく頭を下げたら、尖ったローの靴のその先が、ちゃんと私の方に向いているのが見えて。そんなことでまた涙腺が緩んだ。
/しあわせ、なのだ。