ローの携帯はボタンがうるさい。もう二年目になるっていうのに、カチカチカチカチと耳障りな音がする。親指がボタンを押す度、ゆらゆらと白いシロクマのストラップが揺れた。裏側にオレンジ色で"BEPO"と印刷されたそれは、ローの持ち物の中で最も愛らしい。
「それ、かわいいよね」
「当たり前だろ」
当たり前である意味がわからないけど、ローが少しだけ嬉しそうにしているから追求はしないことにする。ニヤニヤしちゃって。私はこっそり笑った。「それ」が何を指しているのかわかる時点で、そのシロクマを大層気に入っていることは明白だった。少し上がり気味の口角。知らない人が見たら、何か悪いことを企んでいるようにしか見えないだろう。
「でも、そんなローもかわいいよ」
「それは初めて言われた」
「かっこいいは聞き飽きたでしょ?」
「まあな」
シニカルな笑みを浮かべたローは、携帯を閉じた。
「ローはかわいいものが好きなの?」
「……あぁ、そうかもな」
思い当たる節があるのだろうか。ニヤリと笑って、ローは携帯をポケットの中にしまった。
「好きなのかもしれない」とローは言って、その手を私の頭に置いた。じっと見つめられる。体を上手く動かせなかった。私が何も言えないでいると、ローの口角がまた少し上がった。
「冗談だ」
そう言って、ローは私に背を向け、ゆっくり歩き出した。その背中は細くて、がしがしと頭をかく腕には大きな入れ墨が入っているけれど。ズボンのポケットからシロクマを揺らしているローは、やっぱりとても可愛かった。
/かわいいものが好きだ!