マスクもないのに盛大に咳き込んだ私を心底嫌そうな顔をして睨んだのは、前の席に座る彼。トラファルガー・ローだ。
「風邪か」
「ごほっ」
「学校に来るな」
「来るわボケ」
「病人が出歩くんじゃねェよ。休め」
「休まんわボケ」
「なんで」
「ローに会いたいからだ、ろー」
ローは鼻で笑うと、私の頭をくしゃくしゃにした。最近気づいたのだけど、ローは照れると誤魔化すように頭を撫でてくる。しかも、厄介なことに、これは感染する。やられた方も照れてしまう。この前、キャスもやられてた。キャスも照れてた。
そうして、見事に頭がめちゃめちゃになった私は、髪を直す気力もなく、力尽きて机に伏した。
「寒気は?」
「うん。ちょう、さむい……。あたまも、がんがんする……。あと、鼻水……」
「熱はちゃんと計ったか?」
「さんじゅう、ななど」
「早退しろ」
「今動くの、むり」
はあ、と大きなため息の後に、席を立つ音が聞こえて、私は少し頭を上げた。
「赤髪屋」
ローの背中の向こうに担任のシャンクス先生がいた。
「こいつ、熱があるから早退する」
「大丈夫か?」
「心配するな。俺も早退する」
「え」
「そうか。わかった」
シャンクス先生はニヤニヤ笑いながら出席簿を開いた。先生、それでいいんですか。
「帰るぞ」
見上げたローは勝ち気に微笑んだ。
/熱があっても学校に行く価値は十ニ分にある。