ターゲットの隣の部屋を取ったからには、盗聴や盗撮、サーモメーターの心配をしなくちゃいけない。
中でも盗聴器がこの業界では大人気。何と言っても作るのが簡単だもの。簡易携帯さえあればお茶の子さいさい。安く済むのも魅力的だ。
そして、案の定、この部屋も盗聴されてた。


「ねぇ、早くベッドに来て?」

「今行く」


盗聴器の近くでは恋人らしい会話をして、ないところではいつもの二人に戻る。それが一週間も続くと思うと息が詰まりそう。
アイシテルワ。
アア、オレモアイシテル。
あほらしい。

でも、仏頂面であまったるい台詞を囁いてくるルッチは爆笑ものだ。帰ったらカクやジャブラに土産話として聞かせてあげよう。


口の端に愛のないキスをし合って、素足を絡める。導かれるまま私はルッチの首に腕を回した。

本当は出来る限りベタベタしたくないのだけれど、サーモメーターがある限り、常に恋人らしい行動を取らなくちゃいけない。


「ああっ」


アツアツの恋人が、ベッドの上ですることなんて限られている。
もちろん本当にセックスするわけじゃない。いくら諜報部員でもそこまでしろとは命じられていないのだから。
ルッチが腕立て伏せを始めたら、私はそれに合わせるように体を動かせば良いだけだ。たったそれだけでいい。サーモメーターを騙すのって案外簡単。あとはちょっとそれらしい声を出せば完璧。

でも、やっぱり相手はカクが良かった。見つめ合ったり、抱き合ったり、甘い声で囁きあったり、人前でいちゃついたり。全部、全部、ルッチじゃなくて、本当はカクとしたかった。


「ね、ルッチ、私そろそろ寝たい」

「………」


こっそり耳打ちすると、ずっと不毛な腕立て伏せをしてたルッチは、射精時に似た動きをして、私の隣に寝転がった。これでようやく体を休ませることが出来る。私は目を閉じて、眠る態勢に入った。


「おやすみなさい」

「……あァ」


明日はターゲットも出席するパーティーに潜入するらしい。仕立てたばかりのドレスが密かに楽しみだ。
微睡む意識の中、大きな手が私の頭を撫でた、気がした。



/隣の体温が少し熱い。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -