先日、すねに、隠しきれない怪我をした。出来たばかりの禍々しい生傷は、ちょっと動かしただけでズクズクと疼いた。
帰宅したドフラミンゴはいつになくご機嫌だったのに、私の脚の異変に気づくや否や急に無口になって、顔をしかめた。あの始終笑い顔のドフラミンゴが、顔をしかめている!
だから、抱き上げられても、怖くて、いつものように抵抗出来なかった。
寝室に到着して直ぐに、私はベッドに座らされた。ドフラミンゴは傷ついた方の脚を掴んで、顔の近くまで持っていく。そのまま、私は後ろにこてんと倒れた。
「ちょっと!何するつもり!?」
「ジュクジュクしてるな」
ようやく喋ったと思ったら、茶化すような軽い調子で。私は拍子抜けした。
しかし、ふーっと息を吹きかけられて、はっとする。
「舐めたら殺す!」
膿んだ傷を舐めるなんて悪趣味にも程がある。考えただけでもぞっとするが、ドフラミンゴならやりかねない。
「触っても殺す!」
念には念を。私はベッドに転がりながら、叫んだ。
「お前は、人をなんだと思ってんだ」
「え、変態?」
「フッフッ、モリアの野郎ならともかく、俺にそんな趣味はないね」
「だからっ、息吹きかけるなっ」
「乾かしてやろうと思ってよ」
ドロドロとした傷を思い出し、私は顔を歪めた。ドフラミンゴが笑いながら、患部を観察している。
白い脚に異常なまでにグロテスクな傷。汚くて、見ていられないくらい気持ちが悪い。
「あーあー、可愛いアンヨが台無しだなァ」
「馬鹿にしてるでしょ」
見られたくなかったけど、もう遅い。しばらくしたら飽きるだろう。私は抵抗を一切止めて、大人しくされるがままになった。
それでも、本当は見ないでほしかった。こんな気持ち悪いもの、見てほしくない。気持ち悪いなんて思われたくない。どうか引かないでほしい。だって、そんなの勝手過ぎる。幻滅なんてしてほしくない。
ああ、どうか何も言わないで。何気ない言葉一つで、私は傷ついてしまう。
「痛むか」
「え……?」
「痛むのかって聞いてんだよ」
「あ、歩かなければ、だいじょうぶ」
「医者に見せるか?」
「い、いいよ!大した怪我じゃないし!」
「んなことねぇだろ。ひどい傷だ」
抉れた皮膚に膿んだ表面。確かに見た目は痛々しいけれど、過去にドフラミンゴが負ってきた怪我に比べれば、本当に大したことはない。
「俺たち海賊と比べるなよ」
ドフラミンゴの大きな手が私の頭に置かれた。
彼は傷を見ていない。しっかりと私を見つめている。
「こりゃ、一年はかかるぜ。オジョーサン」
「お嫁に、いけなくなっちゃった」
「いらねェ心配だな。俺がもらう」
「うん……」
素直に頷くと、ドフラミンゴはまたいつもの顔になって、笑った。なんだか無性に恥ずかしくなって、私はドフラミンゴの肩に顔を埋めた。
「あのさ……」
「ん?」
「ありがと」
目を見て感謝の言葉も口に出来ない私を、ドフラミンゴは何も言わず、そっと抱きしめてくれた。その腕の中があまりにもあたたかいものから、思わず泣きそうになった。
/滲む