はじまりだよ




夜の砂漠を一台の車が走っていた。

サー・クロコダイルは仕事上のパートナーである女と共に、海軍が用意した席に乗っていた。

彼は、王下七武海として隣国で暴れている海賊の討伐を任された。海軍に使われたのは癪だったらしいが、帰りの道中、クロコダイルの機嫌は良かった。彼はその海賊討伐と同時に、小さな村落を一つ、滅ぼしてきたのだ。滞りなく全てが計画通りに進んでいることに、彼は内心ほくそ笑んだ。窓の外、流れていく景色はどこまでも変わることはない。乾いた大地が広がるばかりである。


「あれは……」


女が、窓の外を見て呟いた。その視線の先を追えば、そこに広がっていたのは、砂に埋もれた一つの村だった。人の気配はなく、かつてのオアシスは、死んだように沈黙してそこに横たわっている。それは間違いなく、今日、彼が仕向けた砂嵐が襲った村だった。右手が生み出した悪魔は全てを飲み込み、全てを奪い去っていったらしい。死んだ大地を眺めながら、彼は笑みを深めた。


「酷い有様ね」

「クハハハ、誰も生きちゃいねェだろうな」

「……あら?」


すうっと女が目を細めた。


「まだ人がいるようだけど」


女の指す方に、孤独な影が一つ、砂漠を歩いていた。その小さな姿をクロコダイルも認めた。


「子供かしら」


強い風が吹き、砂塵が舞う。広い砂漠に取り残された小さな影は、教会と思しき建物の中に消えた。

女は、ぼんやりと遠くを見つめたまま、それっきり何も言わなかった。重く口を閉ざしている。

再び沈黙が訪れた。青白い月光の中、彼の金色の鉤爪が妖しく煌めいた。


「止めろ」


それは歪んだ好奇心だったのか。単なる気まぐれだったのか。車は緩やかに停車した。そして、サラリと砂に姿を変えて、クロコダイルは車内から消えた。




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