「好きだ」
「嘘つき」
「嘘じゃねえよ」
「嘘つき」
「好きだ」
懲りずにもう一度同じことを言えば、なまえは困ったように笑った。そんな顔をされると、なんだか妙な気持ちになる。細い肩にかかっている髪を一房すくって、くるくると指に巻きつける。けれど、それはすぐにこの指をすり抜けていった。
「ローのことは、嫌いじゃないよ」
「…………」
「でも、そんな簡単に人を好きにはなれないよ」
ローだって、わかっているでしょう。そう言ったなまえはもう笑っていなかった。そっと胸に手を当てて、俯いている。きれいに並んだ睫毛にドキリとさせられた。
「わたしは………」
掠れた暗い声が、言葉を紡がんとしていた。俺はその顔に視線を注ぎ続ける。微かに開いた唇は、女の色をしていた。
「ユースタス屋が好きか」
ぷつりと。柔い肌に刃を立てるような。ぷくりと血の玉が生まれるのを、じいっと見ているような。そんな気分で、俺はなまえを見つめていた。なまえは、頭を上げて、その瞳を揺らめかせた。赤い唇が微かに震える。そして、また俯くと、なんでもない返事でもするようになまえは「うん」と頷いた。