眠れば大体なまえに会えた。今日も今日とて、夢の中の屋上は相変わらずの快晴だ。もう何度もここへ来ているけれど、一度だって天候に乱れはない。雲に覆われることも、雨が降ることもなく、気持ちいいくらいの青空が広がっている。そして、いつもなまえはフェンスの向こう側の僅かなスペースにちょこんと座っていた。


「また来たの」

「好きで来てるんじゃない」

「うわ、なんか感じ悪いなー。取り憑いちゃうぞ」

「やれるもんならやってみろ」

「ははは。やーだよ。面倒くさい」


せっかく死んだのに。そう茶化して笑う顔が、気に食わなかったんだと思う。近頃はなまえの飛ばすこの手の冗談を一緒に笑えなくなっていた。相変わらず軽い調子のなまえに、俺は勝手にむっとした。


「なあ」

「んー?」

「死んで良かったと思った?」

「ええ?」


いきなり何だという顔に、真剣な眼差しを送った。すると、とぼけたような表情は次第に引き締まっていき、あんなにきらきらしていた瞳は嘘みたいに陰っていった。


「どっちも……」


俺は黙って、なまえを見つめ続けた。けれど、それ以上なまえは言葉を紡がない。一文字に堅く閉じきられた唇はもう二度と開かない気さえした。


長い沈黙が訪れた。なまえは俯いて、微動だにしない。俺はなまえの表情から何か得ようと躍起になっていたけれど、とうとうそれも叶わなかった。

なまえの言葉の続きを待つ内に、目の前の景色が変わり始めた。目覚める時は、まず視界に異変が起きるのだ。瞬きする度、スイッチをカチカチと切り替えるように闇となまえが交互する。


「もう目が覚めるみたいだ」


今回は俺が悪かったのかもしれない。あの質問に初めから悪意がなかったかと問われたら、俺はきっぱりとは否定できないし、変な話だが、あの時ちゃんと良識が働いていれば、あんなことを自殺者に言ったりしなかっただろう。


「サボ」


呼び掛けているのか。呼び止めているのか。なまえの声が水の中にいる時みたいに聞こえる。


「なまえ………」


細い髪の束が、さらりとなまえの肩を滑っていくのを最後に、俺は目を覚ました。

今更謝ろうにも、見慣れた自分の部屋になまえがいるはずもなかった。