変な夢を見た。

場所は青空が広がるどこかの屋上。高いフェンスに囲まれ、冷たい格子の向こうには人が座れるくらいのスペースがある。それだけなら別に何とも思わないのだが、不思議なのは夢を見ていると認識出来ることだった。


そこは確かに夢の中だったが、嫌に現実味があった。コンクリートの色も冷たいフェンスの感触も信じがたいほど何もかも本物みたいに存在している。
とはいえ、することがなかった。寝転がり空を眺めるくらいしか出来ることがない。俺は固いコンクリートの上に横になった。空にはまばらに雲があるだけで、とても青く晴れていた。

カシャンカシャン。
不意に、風もないのにフェンスが揺れる音がした。俺はやおら起き上がって、そちらの方を見やった。

音がしたフェンスの向こう側に、女がいた。さっきまではいなかったはずだ。突然現れた人影を不審に思いつつ、その背に視線を送る。女は、うちの学校の制服を着ていた。しかし、その後ろ姿に見覚えはない。


「なあ」


声をかけられた女は驚いた顔で振り返った。そして、幽霊でも見るような目で俺を凝視した。


「え、誰?」

「それ、こっちの台詞だから」

「え、意味わかんない」


俺の夢にいながら、俺を知らないと女は言う。あと女のくせに口のきき方がよろしくない。生意気な夢の住人だと思った。


「はあ?あんたの夢の中?何それ。ギャグ?」


俺の簡潔な説明を女は鼻で笑った。その言い方に少し腹が立った。しかし、憎たらしい嘲笑を浮かべていたと思ったら、女はふと何かに思い当たったような顔をして、真面目な眼差しで俺を見つめてきた。


「てか、あんた何であたしが見えんの?」

「は?」

「あたし死んだのに」


フェンスの向こうで、女は首を傾げた。