間違いだらけの恋愛模様




お昼にソファーで寝そべって、があがあと鼾(いびき)をかいているあたり、やっぱり長官はオッサンなんだと思う。お昼寝でこんなにも爆睡できるものかねえ、と独り言。しかし彼はぐっすりと夢の中。つまらないや。


「ねえ、長官」


細くもなければ太くもない胴回りに跨る。ぐう、と苦しげな声が下から聞こえて、私はニンマリした。


「長官、起きて」

「んー」


子供みたいに唸るから、可笑しくって仕方ない。可愛いなあ。可愛いなあ。


「起きてよう」

「んあ?」


瞼が震えたから、きっともう少し。揺すって揺すって、ようやく目覚めた長官はやや疲れ気味だった。


「重い……」

「ちょっと、跨られた感想がそれだけなの?」

「寝込みを襲われるのも、跨られるのも、もう慣れた」

「ふうん?」

「ていうか、お前こそ……男相手に、そんなことばっかしてんのか」

「は?なにそれ」


この人、何言ってんの。
私が、ルッチとかジャブラとかにこんな風に迫ったりすると思うの?は?なにそれ。は?


「なに。長官は、私が好きな人以外にもこんなベタベタするような安っぽい女だと思うわけ?」

「なにキレてんだよ。お前が悪いんだろ」

「は?なにが?悪いって何」

「だから、お前は、なんか、男慣れしてるから」

「は?」


男慣れ?なにそれ。私がヤリマンだとでも言いたいんですか。は?もう一年近くデートしてませんけど。ていうかこの年で未だ貫通してませんけど。生娘ですけど。それなのに男慣れしているとか。は?

てめえの目は節穴か。


「ばっかじゃないの」

「あ?」

「ばかだって言ってんの!何で、わかんないの。何で。何で、そんなこと言うの」


だめだ。泣くな。
意志に反して涙が浮かんでくる。くっそ。いやだ。いやだ。いやだ。泣き顔なんか見られたくない。悔しい。ちくしょう。悔しい。それに、私は泣き顔に自信がないんだ。キレイに泣けるかバカヤロウ。


「なまえ……」

「そんな顔、しないで。襲うよ」

「はあ!?そりゃ俺の台詞だ!!」

「……何よ。私のこと襲いたいわけ?」

「なっ!あっ、ばっ、んなわけあるか!ぶあああか!!」

「ふうん」


涙を拭って、目を細めれば、長官はぐうと言葉を詰まらせた。


「顔、赤いけど」

「う、うるせえ!」

「そんな顔してると本当に襲っちゃうから」


しばし見つめ合った。長官は唇を震わせて、顔を真っ赤にしている。そういえば、私は昔から駆け引きが得意じゃなかった。


「じゃあ、襲うけど。いいよね?」


胸倉を掴んで顔を近づければ、ひっというか細い悲鳴が上がる。


「ごめん。答えはきいてない」


耳元に落とした唇に広い肩がビクリと震えた。ああ、かわいい。そうよ。そのまま大人しく私のものになればいいのよ。ばーか。




そうして、私を貫いた彼は、短い愛の言葉を私に与えてくれました。




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