Deep Red




なまえはワインの飲み方も知らないらしい。首を反らしながら瓶を傾け、グビグビ音をたてて飲み下していく。それでも、何だか品があるように見えるのだから、不思議で仕方がない。
酔っているのかいないのか。なまえは許可なく膝の上に乗り上げてきたかと思えば、許可なく首に手を回して、許可なく口づけを一つ押し付けていった。子猫がじゃれつくよりも凶暴なそれに、面を喰らう。膝の上で妖艶に笑う彼女からは濃厚な葡萄酒の香りがした。


「抱いて、ラフィットさん」

「ホホホ、あなたは好きでもない男とただで寝るのですか。娼婦以下ですね」

「ふふふ、ひどいな。ラフィットさんのこと、本当に好きなのに」

「嘘つきの舌は引きちぎりますよ」

「どうぞ?」


あ、と口を開いて、己の指を迎え入れようとする少女の唇に、募るのはどうしようもない劣情。突き出された舌は当然のように濡れている。それが、とてつもなく卑猥な色をして、私を誘っていた。


「冗談抜きで、私はやりますよ」

「うん」


不可解なほどに従順。悦びで体が震えた。


「あ、でもベロチューできなくなっちゃうね」

「ああ……それは困りますね」


クスリと綻ぶ口の端。嘘つきは誤魔化すようにペロリと唇を舐めた。


「好きとか、ねえ?」

「なんです?」

「愛してるんだけど」


触れ合った唇は歪な弧を描いて。鮮やかな赤が、私を翻弄する。


「あなたは嘘が下手ですね」

「ラフィットさんが信じてくれないだけだよ」


細められた瞳は冷やかだ。ぞくりと背中を這ったものを無視することは難しい。彼女は嘘が下手だが、嘘を見抜くのは上手いのだ。とぼけたふりして笑っても、あっと言う間に押し倒されてしまう。


「あはは。ラフィットさん、すごく色っぽい」

「あなたこそ」


小さな唇を染めているのは、間違いなく己の紅。


「愛してるよ、ラフィットさん」


彼女の零す虚言はどこまでも甘い。愛を囀(さえず)り、私を喰らう赤に、愚かにもこの心臓は激しく音をたて、この体は熱を持つのだ。


/Deep Red

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