不意に、私は目を覚ましました。すうと視界が開けたと同時に、驚くほど意識がはっきりしていくのが分かりました。そこは見覚えのない部屋の中でした。目覚めたばかりの私にとって、それはそれは不思議な体験だったと思います。こういう時、人は体を起こして、状況を確認するものだと思うのですが、眠っていたはずの私の体は初めから直立して、信じられないくらいしっかりと地に足をつけていたのです。壁に凭れ掛かっていたわけでもありません。そういえば眠った記憶もありませんでした。私は情報を求めて周囲を見渡しました。

私は机の前にいました。大きくどっしりとした高級感のある机です。机だけでありません。部屋にある絵画や家具はどれも高価なものに見えました。
私は机に歩み寄りました。広い卓上には、男物の大きな指輪が一つ、置いてあるだけでした。


「これは………」


晴れた日の夜空のような宝石は見る角度でその色を変えました。それは一言では言い表しがたく、黒というよりは群青色で、宇宙が広がっているみたいに星のような瞬きがその小さな石の中に散らばっています。その指輪には見覚えがありました。


「何してやがる」


私が指輪に手を伸ばそうとした時でした。後ろから男の人の声が掛かりました。聞いたこともない低い声に、私の鼓膜は揺れました。
振り返った私を射抜いたのは、鋭い眼光でした。その人は、眉間に深い皺が刻まれるほど眉を寄せて、私を睨んでいました。
葉巻を吹かすその姿はとても堅気には見えませんでした。彼は明らかに殺気立っていましたし、何より風貌が危険な香りを漂わせているのです。顔には一直線に横断している傷がありました。また、彼の左手は欠落しており、変わりに巨大な金色の鉤爪がそこで鈍い輝きを放っています。その手にかけられる自分を想像するのは容易でした。しかし、恐いなどという感情は何一つ起こってきませんでした。この時の私は、異常なまでに平静だったのです。


「てめェは、どうやってここに入った?」

「どうやって?」


そんなこと、私が知りたいくらいでした。私はここを自ら訪れた気はちっともしないのです。


「その質問には答えられません」

「ああ?」

「気づいたら、ここにいたのです。だから、なぜここにいるかは私にも分かりません」


ありのままのことを言ったのですが、彼は私の返事が気に入らない様子でした。おもむろに彼は僅かに左の鉤爪を前に構えました。そして、彼の脚が突然形を失ったかと思うと、ザア、と砂が散り、次の瞬間には彼は私の目の前に立っていました。


「あ……」


私は突然のことに呆然と立ち尽くしました。彼は背が高いので、私は首を反らせなくては目を合わすことが出来ません。しかし、彼が凝視していたのは、私ではなく、私の腹を貫いた自身の左手でした。

確かにその凶器は腹を貫通していました。けれど、そこに痛みはまったくありません。それどころか感覚すらなく、触れられたと意識することも出来なかったのです。それは私の体の痛覚や触覚が失われたなどという問題ではありませんでした。
彼の左手は何にも触れてはいませんでした。彼の左手は私の体をすり抜け、ただ空を切っただけだったのです。
彼は、勢い良くを腕を引き抜きました。もしも私の体に実体があったなら、この腹は切り裂かれていたことでしょう。


「悪魔の実の能力者か?」


彼は眉を顰めたまま、私に問いました。


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