うちの学校の放送室は今は使われていない。何年もの間放置されていたらしく、部屋全体が埃っぽく、机や椅子に塵も積もっている。そんな風に誰もに忘れ去られた場所だからこそ、窓を開けて空気を入れ換えれば、授業をサボるのにとっておきの場所になった。


「邪魔するぞ」


可愛くない台詞と共に遠慮もせず入ってきたのは二組のなまえだ。ジャージを着ているところを見ると、二組は体育の授業中らしい。


「バスケだからな、サボることにした」


なまえは割と運動神経に優れていたが、バスケに関しては救いようがなかった。本人も苦手意識があるようで、その度にサボりにここへ来ていた。一度だけ、俺もその様子を見る機会があったが、その下手さといったら、仲間のためにも、敵のためにも、参加しないことが望ましいくらいだった。


「火拳屋がよく見逃したな」
「ああ、エースには生理だと嘘をついた」


にぱっと笑って、なまえは俺の隣に椅子を持ってきて座った。


「そうしたら、エースの顔が真っ赤になってな。ああ、笑えた。ローにも見せてやりたかったぞ」
「フフ……あんまり火拳屋をからかってやるな」
「そっちは保健の授業か?」
「ああ。ちょうど正しい性交についてやってるな」
「ええ?そういうの、ローは好きだろう?なんでサボったんだ?」
「あれは机の上のお話じゃねェからな」
「ふうん」
「なんなら手取り足取り教えてやってもいいぞ」
「ははは、馬鹿なことを言うんじゃない」


他の女なら満更でもない顔をするのに、なまえはそんな表情は全然しなかった。一度だって媚びるような素振りも見せない。俺のどんな言葉にもひらりひらりと華麗にかわしてしまう。それどころか、ばっさりと一刀両断だ。だから、二人きりになったって、少しも色っぽい雰囲気になりはしなかった。そんな女はなまえが初めてだった。元々仲良くなるつもりで近づいた手前、その手応えの無さには毎度肩透かしを食ってしまうが、なまえとの間に流れる空気は新鮮で思いの外に心地良かった。

ただの「女友達」も悪くないかもしれない。しかし、そう思う一方、振り向かせてやりたい気持ちがあるのも事実である。


「なんなんだ。お前」
「えっ、何がだ」


俺からアプローチを受けたにもかかわらず、俺に気を持たないなんて、おかしい。今まで百戦錬磨だっただけに悔しかった。絶対に振り向かせてやる。そう決めたのは、高一の秋のことだった。


/恋の宣戦布告
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