「手、繋がねェか」
すれ違った恋人を見て、思いつきで口にしただけだった。だから、期待はしていなかった。当然断られるだろうと思っていたが、意外にもなまえは特に気にした様子もなく、はいと手を差し出してきた。
「………」
「ん?どうした?」
「いや……」
恐る恐る指を絡めた。柔らかな生温い熱にドキリとする。どれくらいの強さで握ればいいかがまったくわからない。
「ローの手は冷たいな」
「お前はあったけェ」
小さな手だった。平たく薄い。サラサラした手の甲を指でこっそり撫でた。
「それより良いのか?俺と手なんか繋いで」
「ダメなら最初から繋がない」
「恋人と間違われるぞ」
「なんだそれは。別に私は困らないよ」
俺は、その精悍な横顔をちらりと見た。なまえはなんてことないみたいに前を向いて歩いている。
「小せェ手だな」
「ローが大きいんだ」
手を繋いで、他愛のない話をしながら帰路を歩いた。どこにでもいる恋人みたいに。自然と口元が弛んでいくのを感じた。
「ニヤニヤ笑うな。気持ち悪い」
なまえが怪訝な顔をした。それでもその手は重なったまま。お互いの体温がそこで溶けている。
「ココアが飲みたいな」
「奢ってやっても良い」
「本当か!」
子供みたいになまえの目がきらりと光った。そういうところがいちいち可愛い。
なまえは俺の手を引いて、自販機を目指してズンズン進んでいく。密かに手を強く握れば、無意識に握り返してきた。こんな日がずっと続けば良いと思った。
/ぼくのしあわせ