眩しい。 ゆっくりと目を開くと、タイル貼りの床が、キラキラと光っていた。 こんな、なんてことないものまで綺麗だと思えるなんて、私は恵まれている。 なんて、寝惚けた頭は、感慨にひたりやすい。 ぼんやりと部屋の中を見渡していると、木の軋む音がした。 (誰だろう、私だけのはずなのに) 誰かが、階段を上ってきているようだ。 嫌な予感が頭を過る。 体が硬直した。 (鍵を閉め忘れた?強盗、とかだったら、どうしよう) 片耳を枕に乗せているから、自分の鼓動が大きく聞こえる。 胸のあたりに置いた手をギュッと握りしめた。 「name?」 「…え?」 この声は、ヒソカさんだ。 頬を、大きな手が撫でる。 ゆっくりと、その手の先を見ると、確かにヒソカさんがいる。 ああ、そういえば昨日、日がくれる頃、帰って来たんだっけ。 なんだか、怒っていて、家に戻って、それから… 「おや、熱くなってきた。思い出したのかい?」 夕べのこと 色気を含んだ声音で、ヒソカさんは言う。 楽しそうに目を細める様は、寝起きの私には刺激が強すぎる。 目眩が、しそうだ。 そう思って目を細めると、頬に触れていた手が、今度はそこをつまんできた。 …少し痛い。 「ほら、もう起きて君もシャワーを浴びなよ。今日はビーチに行って、メルカド・モデーロに寄って帰るんだから」 「あ、そうなんですね」 「それとも、僕がシャワー、浴びさせてあげようか?」 「え?!いや、大丈夫です!うっあ!いたっ」 「クックッ」 ベッドから急いで降りようとしたら、あまりの腰の痛さに転がり落ちた。 月のものがきた時でさえ、こんな鈍痛には襲われない。 「あれくらいで立てなくなるなんて、先が思いやられるねぇ」 溜息をついて言うわりに、目は弓形になって愉しそうだ。 床に転がる私の身体に、するりと腕を回して起こすと、支えながら立たせてくれた。 ヒソカさんからは、私の使うシャンプーの香りがする。 「ほら、シャワールームまで連れて行ってあげるよ。特別だ」 「…ありがとうございます」 「大丈夫、そのうち慣れるから」 慣れる、とは何のことだかは、もうこの際考えるのはやめよう。 とにかく今日は、あの輝くビーチへ行けるのだ。 どこまでも透き通る青が眩しい、あのパライアへ。 ← | → main |