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「僕としては、少しでも君のそばに居たいと思っていたんだよ……ああ、そんな目で僕を見ないでくれよ、name」


ゾクゾクするだろ



非常に奇怪な台詞を、彼はさらりと言った。

あれから少し落ち着いて話してみれば、

「嫉妬ってやつさ」

などとのたまうもんだから、苛立ちや羞恥で血が沸騰するような思いだった。
さっきまで人のことを殺そうとしていた人間の台詞ではない。



「怒っているのかい?」


「……いいえ」


私が目を逸らして答えると、喉を鳴らして笑う声が聞こえた。
嘘をついたことなど、お見通しだとでも言うように。

ああ、そうだ、私は怒っている。
何週間も帰ってこないし、帰ってきても気付けばすぐ居なくなっている。

ここへ来て1年、ほとんど独りだった。
知り合いなどいるはずもなく、ようやく慣れてきたところ。

友達のひとりやふたりで嫉妬されてはあんまりじゃないか。


「仕方ないだろう?あのラスタファリアン、君に気があるんだから」

「いや、そんなこと…」

「ある」


私の言葉を遮ったそれは、いつものゆったりとした喋りではなかった。
そう、怒っているのは、私ではない。
ヒソカさんだ。
彼の目は、はっきりとそう言っている。

怒るくらいなら、もっと帰ってきてくれてもいいじゃないですか



「そんなことしたら、我慢できなくなるからね」

「え?」

「顔に出てるよ、name」



満面の笑み。



「僕だって、我慢しているんだよ?あんまり長くいると、抑えられないから」

「なにを、ですか?」

「おや、わからないのかい」



仕方ないなあ
そう言ってヒソカさんは、グッとこちらに迫った。
私の唇に温かい、湿った感触があって、キスされていることに気づき、カッと体が火照る。
それは一回や二回ではなく、ねっとりと舐めるように、味わうように続く。
たまに唾液が水音をたてて、羞恥を煽る。
息が苦しくて、小さく唸ると、やっとヒソカさんが離れていった。


「僕を煽ってるだろう?」

「……いや、あの」

「今までの苦労が水の泡じゃないか、」



もう、壊してもいいかい?


ギラギラと、獣のような目をしたヒソカさんは、吐息混じりに呟いた。
やっと、意味がわかったけど、もう遅い。

私は謂わば、牙も爪も持たない、捕食対象なのだ。

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