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あの不思議な夜から何日か経った。
今日は、珍しく仕事がはかどっていて、午前中のうちに済んでしまった。

久しぶりの自由な時間で何をしようかと悩んだが、こうも唐突にやることがなくなると思い浮かばないものだ。

結局、日々の寝不足を解消しようと、気持ちよく昼寝のできる場所を探している。
せっかく陽気も良いので、無駄に広い庭のどこかにしよう。
できれば、誰かに邪魔されないところがいい。

アベリアの生垣を越えると、ちょうどいい芝と木陰があった。
ここなら、よっぽど探さなければ見つからないだろう。
ブランケットは忘れたが、これだけ日があれば大丈夫そうだ。

私は、すぐさま横になり目を閉じた。
草のにおいが、胸一杯に広がってホッとする。
私が熟睡するのには、さほど時間はかからなかった。








「……さん、………nameさん」


誰かに呼ばれる声がして、私は目を覚ました。
ぼんやりする目を擦りながら起き上がると、肩からズルリと何かが落ちた。
見れば、ブランケットのようだ。


「今日は暖かいですが、さすがに何もかけないと風邪をひきますよ」

「あ、ホセさん」


どうやら、彼がこれをかけてくれたらしい。
隣に腰かけている彼に、私がお礼を言うと、そろそろ冷えてくる時間なので起こしたのだと教えてくれた。

ホセさんの髪が、少し冷たくなった風に揺れるのを見て、一瞬、奥様の部屋で見たあの場面を思い出してしまった。
このひとが、まさか、とは思うが見間違いではないだろう。
その現実から目を背けるように、視線をホセさんから外した。


「いつからここに?」

「さあ、どのくらいでしょうか。忘れてしまいました」


貴女の気持ち良さそうな寝顔は、見てて飽きませんね、とクスクスと笑いながら話すので、とんだ杞憂だったようだ。
私もつられて笑いながら、もう一度お礼を言うと、ホセさんに頭を撫でられた。
やはり、心地好い。
いやでも、ホセさんに撫でられるのは初めてのことだ。
やはりと言うのはおかしい。


「あんまり、そういう顔はしないほうがいい」


心地好さに目を細めていると、ホセさんは真剣な顔をして言った。
そういう顔、と言われても、いつも通りなのだが。


「無意識ですか、仕方ない方ですね」


再び柔和な笑みを浮かべてそう言うと、ホセさんは立ち上がった。
自然な動きで手を差し出され、私も立つように促される。


「そろそろ夕食になりますよ、行きましょう」


そして私はその手をとった。
大きくて堅い、男の人の手だ。
それを思うと妙に恥ずかしくなって、頬が熱くなるのを感じた。
でも、決して嫌じゃない。
とりとめのない話をしながら、私達は屋敷へと戻った。

まさか、こんな場面を、草影から誰かが見ているなんて、このときの私は思いもしなかった。

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