なかなか寝つけなくて、何度か寝返りをうっていたら、同室の使用人にうるさいと追い出されたからだ。 どうせ眠れないのだから、別にいいかと思い、開き直ってどこに行くでもなくただ歩いた。 こうして寝付けないでいるのも、朝のあの噂話がずっと頭から離れないせいだ。 アレックスさんが死んだというのは本当のことらしく、今日は一度も見かけていない。 この屋敷にいる他の者も、それらしいことを言っていたから、間違いないだろう。 そうなってくると、あの噂話に信憑性がある。 信じたくはないが、本当のことなのかもしれない。 ふと気づくと、奥様の部屋へ続く廊下に来てしまっていた。 あまり近づきたくはないところだ。 すぐに引き返そうと思い、足を動かそうとしたところで、おかしな音が聞こえた。 それは、甲高い、悲鳴のような声だ。 私は無意識に足を前に出した。 自分の心臓の音が、妙に大きく聞こえる。 前に進むにつれて、その悲鳴のような声は大きくなってきた。 「……やあっ………あっ!……」 その声は、どうやら奥様の部屋から聞こえてきているようだ。 ドアはきちんと閉まっておらず、細い隙間から光の筋がひとつ、廊下にできている。 ダメだ、この先を見たら、きっと想像通りのものがそこにある。 そうわかっていても、私はそっとドアの前に立って、中を覗いてしまった。 「ああ!……あっ……ん……」 一糸纏わぬ人間が、ふたり。 艶めかしい声をあげる奥様と、燃えるような赤い髪を持つひとの後ろ姿。 ランプの火がチラチラと揺れて、その様を彩っていた。 「ホセ……もっと、……あっ…」 私の記憶は、そこで途切れていた。 気づくと自分のベッドにいて、ボロボロと涙を流していた。 頭の中では、あの甲高い声とベッドのスプリングが軋む音、人の肌がぶつかりあう音がこだましている。 目を閉じると、溜まっていた涙も全部流れて、枕が湿っていくのを感じた。 ← | → main |