不思議なことに、そのカーテンは元通り綺麗にかかって、風に揺れているではないか。 一体なんだったんだろう、と考えたがアレックスさんにされたことも一緒に思い出して気分が悪くなった。 あまり深く考えるのはやめよう。 朝食をとるために食堂に入ると、他の女の使用人たちが固まって、ひそひそと話している。 彼女たちからわりと近い場所にしか空いた席がなく、私はそこに自分の食事を持って座った。 今朝はクロワッサンにスクランブルエッグ、キャベツのコンソメスープだ。 食べていると、聞き耳をたてていたわけではないが、会話が聞こえてきた。 「ええ!アレックスさんが?」 「自殺らしいわよ、首を吊ってたって」 「でもなんでまた……」 「さあ、そんなこと知らないけど、奥様は随分気を落とされてるそうよ」 「そうよね、だってアレックスさんがいつも奥様の"慰め役"だったんですもの」 「"慰め役"?」 「あら、貴女知らないの?奥様、旦那様があまりこちらへいらっしゃらないから、執事と関係を持ってるのよ」 「しかも、夜の関係」 「今はホセさんがついているみたいね、彼も見目がいいし、次の"慰め役"なんじゃないかしら」 「私、ホセさんいいなーと思ってたのに」 「ハル、やめておきなさいよ、奥様に消されるわよ」 「そうよ、あーやだ」 アレックスさんが死んだ。 ただの噂話ではあるが、衝撃的な話だ。 昨日のようなことがあったばかりで、まさか自殺をするなんて。 それにしても、朝から下世話なことばかり話すひとたちだ。 私は食事もそこそこに、さっさとその場をあとにした。 聞いていて気分のいいものではない。 本当か嘘かはわからないが、あの話、特にホセさんのことを聞いて、何故だか気分が落ち込んでしまった。 ホセさんが、まさかそんなこと。 いつも優しく落ち着きのある彼が、奥様とそんな関係になることが信じられない。 「nameさん?」 床ばかり見て歩いていたせいで、目の前にホセさんが居ることに気がつかなかった。 私が来た方向に向かっているようだから、食堂に行くのだろう。 「あ、おはようございます、朝食ですか?」 「いえ、僕ではなくて、奥様のお食事を取りにいくところです」 そう言うホセさんは、いつも通りの笑顔を浮かべている。 噂通り、奥様のところに居たという事実が、突き刺さるようだった。 私は目をあわせているのも気まずくなって、俯きがちに昨日のお礼を言うと、逃げるようにしてその場を去った。 まだ、彼が"慰め役"になったわけじゃない。 そう自分に言い聞かせて。 ← | → main |