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エースはモビーディック号の中でも船底に近い部屋の扉の前に来た。
彼の部屋がある上層部より幾分かじめじめと湿気の多いそこは、船員の中でも下っ端に部屋が割り当てられていた。
割り当てられるといっても、大きめな部屋に詰め込まれるのだが。

「おーいname居るか?」

了承も得ずにズカズカとエースはその部屋に入っていった。
部屋の中にはちらほら人が居て、各々手を休めてエースに挨拶をする。

「nameならいつものとこっスよ、あのハンモックの下」

「おお、サンキュー」

部屋の主のひとりが、隅にあるハンモックを指した。
そのハンモックの下に、丸い小さな毛布の塊がある。
エースはその塊に近づくと、しゃがんで持っていた皿を床に置いた。

「name、飯持ってきたぞ」

「ありがとう、ございます」

高すぎず、かといって低くもない声がし、もぞもぞと毛布の塊から名前と呼ばれた者の顔が出てきた。
女というには少し幼く見える顔に、綺麗に切りそろえられた前髪がパラパラとかかっている。
可愛らしい少年だと言っても通じるかもしれない。

「医務室に居なくていいのか?こんな埃くせえ所じゃ治るもんも治らねえだろ」

「いいんです、あそこじゃ落ちつかないから」

「それに敬語はいらねーって何度も言ってるだろ。俺はお前の隊長じゃねえんだ」

それにいつも世話んなってるのは俺のほうだし、と言ってエースは微かに笑った。
それにつられて名前も目を細めると、たどたどしくありがとうと言うのだった。

「おう」

その言葉に歯を見せて笑った彼は、名前の額に手をあてて熱がないことを確認した。
そしてきちんと食事をとるように念をおしてから部屋を後にした。

さながら妹を持つ兄のような仕草であったと部屋の住人達は眺めていた。

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