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nameが船に戻る頃、日はとっぷり暮れていた。
だが、まだリックに言われた門限には時間がある。
特に叱られることもないだろう、とホッとして甲板に登る梯子を登っていった。


「よう、遅かったな」


登りきって一息ついたところで、ふいに声をかけられ驚いた。
声こそは上げなかったが、突然のことに心臓は早鐘を打つ。
疲れているせいで、周りなど気にしていなかったせいだ。
タイミングが悪かっただけ。

ただそれだけだ。


「ちょっと、迷ってしまって…」


「そうかよい、それは大変だったねい」


暗くてマルコの表情はよく見えない
しかし、優しげに笑んだように見える彼に、nameは少し緊張を解いた。

マルコは、ゆらゆらと光る火をゆっくりと口許に運んだ。
ちょうど一服していたところに、nameが帰ってきたのだ。

そして深く紫煙を吐き出し、煙草を海に投げ捨てた。
nameがその動作をぼんやりと眺めている間、マルコは歩み寄って彼女のすぐ目の前に来ていた。
もともと、そんなにない距離だったが、今はもう表情が見えるほど近くに居る。

ふいに、マルコはnameの頭に手を伸ばした。


「随分、羽目を外してきたねい」


nameの髪についてた葉や埃を、マルコがはらってやる。
いつもなら驚いて飛び退くnameだが、疲れているのか、大人しくされるがままになっていた。


「…すみません」

「別に謝ることじゃねえよい」

「はい」


ゴミをはらっていた手は、次第に頭を撫でるようになり、じんわりとした暖かさが伝わっていた。
nameには、それがとても心地好かった。
普段の恐怖心はどこかへ行き、急に目蓋が重くなるのを感じる。


「髪、伸びたねい」


そう言いながら、ボサボサと伸びっぱなしの髪を撫で付けた。


「また、切って、もらわないと…」

「誰にやってもらってるんだよい?」

「えーす、に…」

「ああ、どうりで」


大雑把な切り方だ、と続けるマルコの声は、だんだんと遠くなっていった。
疲労が最高潮に達したうえ、頭の心地好い感覚のせいで、目蓋を押し上げることができない。
ここで寝てしまっては、迷惑がかかる。
しかしそれでも、nameは我慢することができなかった。


「イゾウのやつは器用だから、今度やって…………name?」


自分の胸元にゆっくりと倒れてきたことで、マルコは異変に気付いた。
眠そうだとは思っていたが、まさかこのまま寝てしまうとは。
声をかけても、静かな寝息が返ってくるだけだ。


「…仕方ないねい」


マルコは、ふっと笑みを溢し、nameを抱き上げると、船内へと向かって歩き始めた。

彼女は、大きな温かさに包まれ、一層眠りを深くした。

宵の小波が、二人を見送るように小さく踊った。


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