Main | ナノ
nameは、水の底から浮上するように、意識がはっきりとしてきた。
ふかふかと温かいものに包まれて、とても心地好い。
だんだんと鮮明になっていく視界に、隈の濃い男と、キャスケット帽の男、そして、頭がおかしな方向へ向いている男が映った。


「あ、起きた」


頭上から落ちてきた声に、nameはピクリと体を揺らした。
恐らく、この自分を包んでいる生き物から声を発したのだろう。
体越しに振動が伝わってくる。


「おまえ、どこから来たの?」


声のした方に視線を移すと、熊がいた。

白熊が。


「キュッ(しろくま)!?」

「そうだよ、おれはベポ。タヌキ、お前名前は?」

「……キュゥ(nameです、あとタヌキじゃなくてアライグマです)」


しっかり訂正を入れつつ自己紹介すると、途端にベポは目を輝かせた。


「え、お前くまなのか」

「キュッ?キュウ(くま?まあ一応熊とはつきますが)」

「そっか!俺、熊の仲間に会うの久しぶりだ!」


いや、正確に言えばまた熊とは違うのだが、あまりに嬉しそうなベポを見てそれ以上言うのは憚られた。
それよりも、今自分はどこに居て、どうやって船に戻るのかを知りたい。
どうやら、このベポという白熊は自分に害を加える気はなさそうだ。
東の海岸がどちらにあるのかさえ知れれば、仲間のもとへ帰れる。


「え?東の海岸に行きたいの?」

「いま東の海岸には、四皇が来てるぞ」


二匹の様子を見ていたペンギンが、仕留めたライオンを縛りながら言った。
自分はその船に乗ってきた、とベポに通訳してもらって伝えても、忍び込んでたのか、と言ってクルーだとは思っていないようだ。
とにかく、白ひげの船に行きたいのだ、と身振り手振りでnameは言った。


「あの白ひげの船なんて危ないよ!お前どこまで行くんだ?」

「キュウ…(どこまでと言われても…)」

「決まってないの?それならオレたちと一緒に来ればいいよ、ね、キャプテン!」

「動物一匹増えたところで、大差ねえ」

「だって!それでお前、オレの子供産めばいいんだよ!」

「おい、二匹までにしろよ」

「ありがとうキャプテン!」

(え!?なに言ってるの、子供!?)

急な展開を見せる会話に、nameの思考は追い付かなくなった。
思考停止しているnameをよそに、一行は話をまとめて歩き出した。


(とにかく、逃げなきゃ!でもどこに…)


ぐるぐると考えても、肝心な解決策は出てこない。
ベポに抱えられて歩くうちに、大分日が傾いてしまった。


「俺たち、西の海岸に船をとめてあるんだ、反対側ならさすがに白ひげと会わずに済むだろ」


ふいに、シャチと呼ばれる男が、死んだライオンを引きずりながら話し掛けてきた。
今、確かにシャチは西の海岸、と言った。
自分が連れていかれている方向は、東とは真逆なのだ。

つまり、今来た方向を真っ直ぐ戻っていけば、東の海岸に出れる。


nameは体を目一杯よじって暴れ、ベポの腕から飛び出した。


「あっ!nameが逃げた!」

「待て、ベポの嫁!」


後ろから自分を呼ぶ声がする。
振り返らずに走り続けた。

この分では、日が落ちる前に船へ戻れそうにない。

ジャングルにさす影は、無情にも伸びていった。

- 47 -



|
main