「いた〜!」 頭を抱えているのは、橙色のつなぎを着た白熊だ。 「なんだ今の毛玉!?」 キャスケット帽をかぶった男が声をあげる。 視線の先には毛玉、もといアライグマの姿になったnameがぐったりとしたたま地面に転がっている。 「おれ、頭割れた…」 「割れてねえよ」 PENGUINと書かれた帽子を被る男が、近づいて観察するように見ながら言った。 「見てみろよ、タヌキだ」 そう言われて覗きこむと、本当だ、と頷く。 白熊が興味深々といった様子で、つついたり首根っこを掴んで持ちあげたりして弄んでいる。 それでもnameが目を覚ますことはない。 「なんなんだ、そいつ」 「う〜ん、寝てるね」 「グルルル…」 「……おいベポ、腹減ってるのか?」 「俺、腹へってないよ。ペンギンじゃない?」 「俺もさっき食べたばっかりだぞ」 「じゃあ、この音は……」 二人と一匹は、音のした方へゆっくりと振り返った。 そこには鋭い爪と牙、そして立派な鬣(たてがみ)…… 「ガフッ」 「ライオンだああああああ!!」 キャスケット帽の絶叫とともに、一斉に走り出した。 「なんで逃げるんだよ!」 「シャチが走り出したんだろ」 「いやだって、3メートル以上あるぜ!?ベポ、同じ動物だろ!なんとかしろよ!」 「怒りで我を忘れてる!」 「ナ●シカ!?」 大声で叫びながら走る集団は、ジャングルの動物たちより奇妙だ。 ベポと呼ばれた白熊は咄嗟に走りだしたせいで、nameを抱えた状態にままになってしまった。 熱帯の植物をかき分けながら突き進むと、先の方に見慣れた後姿を捉える。 「船長!!!」 「あ?」 「助けてください!!!」 必死の形相でこちらに向かってくる自分の船員を見て、思い切り顔をしかめた男は、おもむろに刀を抜いた。 そして、突進してきたライオンに対して、水平に刀を振る。 一瞬の沈黙の後、血飛沫を上げて倒れた。 あまりにあっけない。 逃げてきた3人は、口を開けてその様子を見ていた。 ゴクリ、とペンギンが生唾を飲む音がやけに響く。 「…てめえら、わかってるな」 「ぎゃあああああ!」 面倒事を持ちこんだ船員が、この船長によって切り刻まれるのは当然の結果だった。 ← | → main |