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「エース、それどこに持ってくんだよい」

男が白ひげを模した刺青のある背中に声をかけた。

「ん、ああこれか?」

エースと呼ばれた彼は手に持った皿を少し持ち上げて、男に聞き返した。
皿には果物とパン、それから小さな器に入ったヨーグルトが乗っている。
男は振り向いたエースの問いを無言で肯定した。

「nameにだ」

「…name?」

「昨日あいつ海に落ちただろ。それで風邪ひいたんだ」

名前がいねえと色々面倒なんだよな、とボヤくエースに男は疑問を持った。
彼が親しげに呼ぶ名前に聞き覚えがない。
この大所帯では下っ端のほうにもなると名前など覚えていない者も居る。
だがしかし、普段からよく言葉を交わす彼が親しい者(仮にも隊長という立場でありながら食事を運ぶほど)の名前くらい、知っていてもいいのではないかと思ったのだ。

「なんだ、マルコはnameのこと知らねえのか?」

「聞いたこともねえ名前だよい」

意外そうな顔をするエースに、マルコと呼ばれる男は眉間にわずかな皺を寄せた。
確かに、エースの口からそのような名前を聞いたのも初めてだ。
これは忘れたわけではないだろう。
エースはよく見知っているが、マルコが全く知らないというのは何ともおかしな話だ。

「今度話してみたらいいじゃねえか、あいつ良いヤツだぞ」

「そうだな」

カラリと笑ったエースに返事をしながら、すでにマルコはあの机上の書類たちを今日はどこまで処理しようかと考えていた。
それほどに、マルコの名前という人物に対する興味は薄かったのだ。

じゃあなと自分に背を向けたエースを見て、自室へ向かおうと足を動かした。

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