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細く長く、骨張っていて、綺麗な手。この手が奪うのは、他人の命か、私の理性か。


お手を拝借



「楽しい?」


「うん」


「俺の手を眺めるのが?」


「うん」


手首から五本の骨がゴツゴツと伸びている。
骨のまわりにはまとわりつくように血管がところどころ浮き出ていた。
それをなぞったり、軽く圧してみたりして感覚を楽しむ。


「今日も任務だったの?」


「まあね」


ちょっと間延びした独特の喋り方が、鼓膜を震わせた。


「ふうん」


握っていた手を裏返す。
手のひらは皮が硬くて、自分のものとは全く別のもののようだ。
至近距離で見るとわかるが、ところどころ豆が潰れて固くなった跡がある。
私はもっとよく見ようと、顔を近づけてた。


「どうしてそんなに好きなの」


「うーん」


「人を大勢殺す手だから?」


「うーん」


「それとも」


カカシは触っていた手に、力を入れた。
急なことで私は反応できず、パッと放してしまった。
視界から消えたその手は、どうやら私の首を掴んでいるようだ。
そのまま締めようとでもするかのように。


「お前を気持ちよくさせる手だから?」


首をつかんでいた手は滑るように上がっていき、くい、と私の顎を持ち上げた。
自然と視線も上がり、カカシと目が合う。
ギラギラと光る、男の目だった。


「理由なんて、とくにないわ」


「そ」


短い返事のあと、私の唇を触るその手は、今夜も私を乱すのだった。


















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