甲板に出て一服するためだ。 まだ寝ぼけている頭をガリガリ掻いて、ひとつ角を曲がる。 すると、腹の辺りに何かがぶつかった。 「ん?」 さっぱり気配なども探っていなかったので、誰かが来ていたことに気づかなかったらしい。 本当に軽い衝撃だったので、自分は大したことはない。 しかし相手のほうは弾き飛ばされて尻餅をついている。 良く見ればやつれた顔のnameではないか。 「よう、大丈夫か?」 中腰になって顔を覗き込めば、焦点のあわない目がそこにあった。 「おい」 「ああ、リックさん、おはよーございます」 「どうしたんだお前、ほら掴まれ」 妙に間延びした返事に、呆れてため息が出た。 nameに手を差し出し立たせてやり、転んだせいで付いた埃を叩いて落としてやる。 「夕べは部屋に帰って来ねえと思ったら、朝帰りか」 「そんなんじゃないですよ〜」 再び深いため息が出た。 うっすらと笑みを浮かべるnameは、既に半分夢の中といった具合だ。 よほど寝不足らしい。 「どこの野郎の部屋に居たんだか…」 「思い出させないでください」 急に真顔になったnameは、冷たくそう言った。 なんとなく触れてはいけないことだと予想できたリックは、表情に憐れみを浮かべる。 普段はずっとやる気のなさそうな顔をしている彼が、こうして感情を出すのは珍しいことだ。 「とりあえず、部屋行って寝ろ」 どうせ今日もスコールでろくに洗濯もできないんだから。 「そーします…」 フラフラと歩き出したnameの背を見送る。 つくづく、貧乏くじばかり引くやつだ。 あんな奴に目をつけられるなんて、同情してしまう。 (まあ、俺は関わらないけどな…) そう思いながら、甲板へと続くドアを開いた。 ← | → main |