申し訳なさと勢いに任せてここまで来てしまったが、あのマルコと顔をあわせるなんてハードルが高すぎる。 ましてや自分のせいで風邪をひかせてしまったのなら、尚更だ。 しかしそうぐずぐずもしていられない。 せっかくの粥が冷めてしまう。 そしてついに言うことを聞かない腕を叱咤して持ち上げた。 コッ…ココン 「うっ…」 手が震えたせいで、ノックが奇妙なものになった。 もはや半ベソをかきながら、決死の思いでドアを開く。 「失礼します」 返事はない。 おそらく、ベッドにできた山が部屋の主なのだろう。 そろそろと近づけば、規則正しい寝息が聞こえた。 慎重に盆を机におくと、nameはひとつ深呼吸をする。 これを起こさなければならないのかと思うと、彼女は目眩がするような気がした。 何故だか急に喉がカラカラになって、口の中で舌が張り付いている。 「…たいちょーさん」 発音がおかしくなったが、そんなことはどうでもいい。 もっと重要視すべきなのは衣擦れの音がして、あきらかにマルコが起きてしまったことだ。 いや、起こすつもりで声をかけたのだから当然の結果なのだが。 声をかけた当の本人は、失神しそうなほど驚いていた。 しかもその勢いで尻餅までついて、息をのみ硬直する始末。 その様はまるで、封印された怪物でも呼び覚ましたようだ。 「name…?」 寝返りをうってこちらを向いたマルコと、同じ高さで視線が交わった。 鼓膜の近くで心臓の音が聞こえる。 このまま一生分の脈をうってしまいそうだ、と彼女は頭の片隅でぼやいた。 ← | → main |