ひとりの男が部屋に備えつけられた机にかじりついている。 そこへふいに扉が音をたてた。ノックとはお世辞にも言えない荒々しい音だ。 しかし男はそれを気にもとめず、返事をする。 海賊のような荒くれ者の集団の中ではこれが日常なのだ。 「偵察隊からの報告書です」 「ああ、ありがとよい」 紙の束を受けとり再び机に向かおうとした彼は、何となしに小さな丸窓を見た。 波は穏やかで、柔らかい日差しが降り注いでいる。 今日は快晴だ。 「ん?」 ふ、と一瞬部屋が陰った。白い何かが窓を覆ったのだ。 そして数秒遅れて、ドボンと海が飛沫をあげる音がした。 誰か落ちたか。 男がそれに思考を奪われたのはほんの一時で、再び机に向った。 甲板から少し慌ただしい物音が聞こえる。 他の船員が落ちた者に気づいたのだろう。 男は先程受け取った紙の束を机の上に乱雑に積み重ねられた紙に重ね、ペンをとった。 カモメが遠くで一声鳴いたのが聞こえた。 ← | → main |