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とある穏やかな日の白鯨の背の上で、軽快な刃物の音と一緒に髪がハラハラと舞ったいた。

「弟の髪もこうやって切ってやってたんだ」

上手いもんだろ、と少し得意気に話すのはエースだ。

「そ、そうなんですか」

そして緊張気味にエースの前に座っているのは名前である。
何故知り合ったばかりのエースに髪を切られているのかというと、それは数分前のこと…





エースとnameは再び物干し場に居た。
2人が出会ってまだ日は浅い。
名前は洗濯物を干し、エースは横になってそれを眺めている。

それまでぼうっと彼女が仕事をしているところを眺めていたが、突拍子もないことを言い出した。

「なあname、その髪邪魔だろ」

彼女の髪はボサボサと無造作に伸ばしっぱなしなのだ。
しかも時々鬱陶しそうに髪をかきあげていることもあって、明らかに仕事の邪魔になっているのがわかる。

「でも縛るのも面倒だし、これ以上自分じゃ切れないですから…」

「じゃあ俺が切ってやろうか?」

「え?」

「よし、決まりだな」





そうして今に至るわけだ。
さらさらと切った髪は風にのって飛んでいく。
nameはそれを見ながら腿の上に乗せた手をギュッと握った。
今まで髪を人に触られたことなどほとんどないものだから、くすぐったいやら恥ずかしいやらで顔が火照ってしょうがない。

「できたぞー」

「あ、ありがとうございます」

他のクルーが遠巻きに冷やかしてくるのを気にもせず、エースは最後まで切り終えた。
終始恥ずかしくて仕方なかったnameは顔も上げられずに礼を言う。

そんなnameの前に回り込んで、出来映えを確認するとエースは真面目な顔をして口を開いた。

「…なあ、敬語やめろよ」

「でも隊長ですし…」

「家族だろ、気にすんな!」

切ったばかりの髪をかき混ぜて、エースは歯を見せて笑った。
その時、生まれて初めてnameは人の笑顔が眩しいと感じたのだった。

切られた髪は、確かに彼の弟を思わせる長さになっていた。

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