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これは数カ月前の話…




白ひげの一行は次なる島に向けて航海を続けていた。
食堂では湯気のたつコーヒーを片手に新聞を読むサッチが居る。
その日は冬島の気候に入っていたため雪が降り、船内も冷え切っていた。

「サッチ」

不意にサッチは声をかけられ食堂の入り口に目をやると、頭にわずかな雪をのせたマルコが立っていた。
どうやら島の偵察から帰ったところらしい。

「これ、夕飯の足しにしろい」

飛んでたら見つけたのだと言ってテーブルに置かれたのは、豊かな縞の尾を持つ茶色の生き物だった。

「おいおいなんだこりゃあ」

「さあな、タヌキじゃねえかい」

「…タヌキねえ」

じゃあ今日はタヌキ汁か、と考えている間にマルコは食堂から居なくなっていた。
夕飯の食材となるタヌキらしきものに視線を移すと、真ん丸の黒目と目があう。
恐怖からか、それとも寒さからなのか小刻みに震えている。

「お前も運が悪かったな、あんな冷酷非情な鳥に捕まってよ」

話しかけると縋るような目で見つめてくるその動物がなんだか可哀想になった。
何より食べるにはあまりに小さい。
それなのにあのマルコときたら、あの眠そうな顔で平然と食材呼ばわりするとは、その神経を疑いたくなる。

その小動物の運の無さに同情の念を抱きながら、サッチはいまだ震えるふわふわした焦げ茶の毛を撫でてやった。

(せめて最後は優しくしてやろう…)

先走った弔いを心の中でしていると突然、むくむくと大きくなりだしたではないか。
サッチは撫でていた手もそのままに、みるみるうちに人型になってゆくタヌキを目の前に呆気にとられて固まった。

「あ、あの…!」

震える小さな声をあげたのは涙が溢れそうな目で見上げてくる少女だった。

「わ、わたしを、食べないでくださいっ」

そのとき、ハートを打ち抜かれた音が船に響いたとか響かなかったとか…



そしてこれが、後にnameと彼女の父親のようになるサッチの出会いであった。

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