正午が近づいてきている、そろそろ出陣部隊も遠征部隊も一度、本丸に戻って来る頃合いだ。

陽は頭上高く昇っており先ほどより自分を写す影が短くなっている。



急がないと午後の見回りや仕事に支障をきたしそうだ。

そもそも、私がいつも通りの時間に目を覚まさなかった事が原因なのだが。



先ほどの縁側に近づくにつれて喧噪が耳に入る。

あの二人だけではこんなに騒がしくはならないだろう、一体何が起こっているのか。

そして縁側全体を見通せる庭にまで来ると、私はその光景を目の当たりにし絶句した。






爺二人の周りには数十人の刀剣達が集まり、お茶というよりは酒盛りをしているようにしか見えなかったからだ。どうしよう、もうおさめられる気がしない。

私は呆然としながらも、立ちながら飲めや歌えをしている刀剣達を避けながら、事の発端であろう爺二人に声をかけた。





「宗近さん、鶯丸、この騒ぎは一体。」

「おお主、実は皆があまりにも忙しないのでな、一息いれさせたのだ。なぁ鶯丸。」

「そうそう、三日月宗近の言う通り。」





そう言って喧噪の中で二人はさも楽しそうにお茶をすすった。

彼らの傍にあった鶯色のお茶菓子が先ほどより十羽ほど増えている。

そして茶器の横には空っぽなのか徳利がゴロリと二本転がっていた。




遠征に出ていたはずの青江や、出陣部隊に参加していたはずの長谷部くん達も和気あいあいと酒を飲んで談笑している。

それどころか先ほど畑当番だったはずの粟田口の刀剣達が忙しなく料理や飲み物を縁側や運び、ぱっと見、成人組がどこからか敷物を用意し、その上に酒やら料理やらを広げて囲んでいる。







「どいてどいて、お酒と料理の追加だよ。さぁ君も座って一緒に食べよう。」

「光忠!」

「まぁ、言いたい事は何となく分かるけど、こうなったら楽しんじゃった方が格好いいと思わない?」




遠征していたはずの燭台切光忠は両手に酒瓶と串料理が載った皿を持ちながら器用に審神者の背中を押して、成人組の輪の中に押し込んだ。

燭台切はさぁ食べようとばかりに、審神者の手に串料理を一本持たせる。

すると香ばしい鶏肉の香りが鼻へと流れ込んだ。

空いていた逆の手には、おちょこを持たされ隣をさっと陣取った日本号が溢れんばかりに審神者の持つおちょこに酒を注いだ。

日本号とは逆側の場所を次郎太刀が 陣どる。





「ほら、飲め飲め、ぱぁっとな」

「大丈夫!アタシが介抱でもなーんでもしてあげるから、さぁさ、ぐぐっと」




日本号と次郎太刀に肩を組まれ飲めと急かされる。

どうしよう、もうこの人達酔っぱらってるから何言っても聞いてくれないだろうし、彼らの酒癖の悪さは身にしみている

。この騒ぎ方だと午後の遠征も出陣も無くなるだろう、手入れが必要な刀剣も特に見当たらないし、どんちゃん騒ぎを聞きつけて縁側に刀剣達は大集合している。


「主も来たぞ!」「主さま!どうぞお楽しみ下さい」「さぁ飲みたまえ」といつの間にか私を中心に刀剣達が集まっていた。


もう、どうにでもなれ。






「じゃあ今日は特別!夜まで宴!明日からまた頑張ろう!乾杯!」

『乾杯!』

「主さま!食べて食べて!」




三日月宗近は審神者が観念したように酒を飲み干したの遠目に見ると満足気に笑った。

隣を見れば鶯丸も目を伏せ茶をすすっている。

審神者が寝坊したのは日々の業務を真面目にこなしていて、我々にかまけては休息を怠っているからだと彼は思う。

だから茶に誘ったのに、彼女の気はそぞろでちっとも休息にはならなかった。



今朝は当番に向かう来派の刀剣達や、粟田口の刀剣達にも「当番があるから」と茶を断られ、狐二匹にも断られた。

本丸内を見回っていた虎徹の次男坊にも茶を濁され、とうとう暇そうな鶴が通りかかり「驚きの茶」の提案をされたのだ。



それは良いと、早速鶴丸に酒を何本か頼み食事当番の乱と堀川に宴会の用意を頼んだ。



次に来た者こそ茶に誘いいれようと準備は整い、粟田口の刀剣達が大根をこれでもかと持ってきた所に人数分の茶を酌んだ。

遠征から戻ってきた青江を鶴丸がさっと捕まえてお茶だといって酒を飲ませた。

粟田口の短剣達の大きな声で日本号と次郎太刀が何かを感じとり縁側の傍にゴザをひき、出陣部隊が戻った所で「お茶菓子だけでも、食べなさい」と鶯丸がせっせと酒を仕込んだウグイスを、何も知らない粟田口の長兄が「ありがとうございます」と口に放り込んだ所で私達の策は成功したと確信した。





これで、のんびり皆で茶が飲める。






「茶では無くて酒の奴が大多数だけどな!驚きの茶はうまくいったようだな!」




鶴丸が酒瓶から茶の急須に酒を流し込むのを横目で確認しつつ、三日月はウグイスを一羽ほど口の中に放り込んだ。

今日は快晴だ、青空の下で昼からの宴会も悪くはない。



これで少しでも彼女達が休まれば、と。




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