いつも通りの時間に目が覚めたつもりだったが部屋の前に置いてあった御膳の冷めようからすると、いつも通りという訳ではないようだ。

寝坊したのかな、まぁ良いか、私よりも有能な刀剣達がどうにかしてくれるはずだ。


部屋での朝食を終えて、軽く身支度を整える。


髪を結び、動きやすい袴姿に着替える。

朝食がのっていた御膳を洗い場に持って行くと、そこには無愛想な表情の小夜が居た。

丁度洗い物を洗い終えたのだろう、手についた水を布で拭いている所だった。



「小夜、おはよう、今日も無愛想な顔してて可愛いね、ちょっと笑ってみなよ、私に、にこりと、音とか声とかだしながら。」


「遅い。」

「すみませんでした。」

「かして、洗うから。」

「うん。」

「ん。」




私の手から空いた御膳を受け取ると小夜は手際良く茶碗をゆすいでいく。

そばにある椅子に腰掛け、小夜の小さな後ろ姿を見ながら、まだ上手く働かない頭で考える。


今日の朝の洗い物担当は小夜で良かった。

私が遅くなっても怒られもしないし、他の洗い物が減らなくて先に進めない事もないし。

やはり分担作業というのは大切だ。

そういえば今日の指示は誰が出してくれたのかな、小夜が洗い物をしてくれているという事は今日は比較的のんびり屋さんが出した指示ではないだろうな。



本丸内での仕事は刀剣達に振り分けられる、毎朝あみだくじで指示担当を決めてその刀剣の指示にそって一日を過ごす。

審神者としての私の仕事はは出陣予定と遠征予定の刀剣達に前日に「明日は無理せず頑張ってね」とお願いして、手入れが必要な刀剣が居れば手入れをする。

つまり今日の指示担当は本丸内に残った刀剣達の誰かだ。

一番真っ先に長谷部くんを思い出したが彼は確か今日の遠征予定に入っていたはずだ。




「小夜、今日は誰が指示担当なの?」

「えっと、今日は…虎徹の次男だと思う。」




虎徹の次男、蜂須賀くんか。

紫の長い髪の毛が記憶の中にふわりと舞う。

そろそろ私も手伝わなきゃと思い、椅子から立ち上がる。

小夜の横に立ち、乾いた布を棚から取り出した。

小夜が洗い終えた器を手にある布でひとつひとつ拭いていく、あっという間に私が使った器達は次の食事に向けて準備万端になった。




「蜂須賀くんなら一安心、今日はのんびりできそうだね。じゃあ私は他の場所もうまくいってるか確認してくるね、遅くなってごめんね小夜、待っててくれて有り難う。」

「ん。」




私は小夜にお礼を言って洗い場を出た。次はえっと、畑当番の所に確認しにいかなきゃ。ここからだと、外に出るには縁側が一番近いはず。

縁側にたどり着く前に鳴狐とすれ違い挨拶を交わした。お供の狐と鳴狐の頭を軽く撫でると二人は満足そうだった。

縁側ではいつもの二人がお茶を楽しんでいるのを見つけた。





「主、おはよう。今日はいつもより優雅な朝だな、それも良きかな。」




宗近さんがゆっくりと笑う隣で鶯丸がせっせと新しい湯のみに茶を注いでいる、これはマズい。

鶯丸も宗近さんも確実に無言のまま私をお茶に参加させる気だ。

縁側から外に出るのは避けた方が良かった、この二人はお茶に参加させるためだったら手段を厭わない性格だ。

二人で延々とお茶をしているのも好きだが、他の刀剣達を交えるのも好きだし、なにより私にお茶と菓子をたらふく食べさせるのが目的としか思えない。






「さぁ、君のお茶を入れたよ、今日のお茶菓子は鶯色だよ、食べると良い。」

「ありがとう、でも…えっとちょっとだけ頂きます。」

「よろしい。」





どうにも断る事は出来ず、私は二人の間に広がった隙間に座るざるを得なくなった。いつの間にか座布団も用意されていて至れり尽くせりである。

目の前には湯気が立つお茶が用意され、横には鶯色の菓子がのった皿が置かれている。

鶯丸が言うように、見事に鶯色をした餅の和菓子は小さな鳥の形をしており、可愛く私に微笑んでいるようだった。

あまりにも可愛いお茶菓子を見ていると中々口には入れづらい。



だがこの後にも色々見回る所はある、今日の指示担当が蜂須賀くんでも油断はできない。

彼は特に真面目で優雅な性格だが、虎徹長男の長曽祢さんの事になると目の色を変える時があるからだ。


長曽祢さんは今日の出陣予定にも遠征予定にも入っていないので、そこら辺をうろついているかもしれない。

かといって蜂須賀くんが長曽祢さんを『係』に付かせる事もないだろう。改めて手元の皿に鎮座する鶯色のウグイスを見る。





「可愛くて口の中には入れづらいですね、このウグイス…」

「可愛いだろう、私も特に気に入っているんだ。だが食べられてこそ菓子の本業だ。ちな
みにだがこの菓子は乱と堀川の合作だそうだよ、あんまりにも可愛く出来たもんだからと沢山持たせてくれたんだ。」

「はっはっは、ゆっくりと味わえ、茶を飲もう。」





鶯丸が嬉しそうに笑うと、宗近さんもずずいと茶を押し出してきた。

確かに可愛いし、ゆっくりしたい気持ちも有るのだが寝坊をした時点でかなり時は進んでいるかもしれない。

私は意を決して皿にのったウグイスの菓子を口に放り込んだ。

甘い餅が口の中でさらっと溶ける。

そして、皿の上に載っているもう一羽のウグイスをサッと口の中にいれる。すると左右から「…風流ではないな」とか「ゆっくり味わえと言ったのに…」と




嘆く声が聞こえたけど私は聞こえないフリをして、お茶をグイと飲み干した。


ごめんね、爺達。


今はちょっと忙しいから…どうせ、夕餉までお茶してるでしょ?また時間あったら絶対によるからね、と心の中で声を濁し。

私は「ごちそうさま、また頂くね」と言って、縁側の下にある私の備え付けの草履に足を通した。



まだ背中に爺達の言葉を感じたが私は草履の感覚を確かめて、畑へと向かった。





鶯色のお茶菓子は誰がために
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