どうしてどうして、どうして


彼女の顔に文字が書いてあるように、俺は彼女の意思を読み取る事が出来た

暗闇の中、校門の明かりに照らされながら

丸井に手をひかれて歩くなまえの姿は想像以上につまらない



「あれ、ブン太?彼女でも出来たのかな」

「さぁな」

「・・・たるんどる」


どんどん遠くなっていく2人の姿、俺と精市と弦一郎の3人で見送る

つまらない物を見たくなかったら、俺自身の意志をハッキリ示せば良かったのに



「教えてくれたって良いのにね、水臭いな」

「そうだな」

「・・・たるんどる、たるんどるぞ・・・」



全部事情を把握している俺は精市の言葉に適当に頷く

弦一郎はブツブツ何か呟いているが別にどうとも無い事を言ってるだろうから気にはならない


「もう俺等も高校生だし、さすがに彼女くらい出来てもおかしくないかー」

「そうだな、精市に予定は無いのか?」

「うーん、まだまだテニスの方が魅力的だな・・・蓮二はどうだい?」

「そうだな、予定らしいという物はないな、なんと言えば良いか分からないが」

「そっか、そんなもんだよね」



丸井達も、もう傍には居ないだろうから

そう言って精市が歩き出したのを筆頭に俺も歩き出す

仏頂面のまま歩く弦一郎が、そっと口を開けば俺と精市で目を見合わせてしまった



「・・・俺には、その、聞かんのか」

「え、真田は無いでしょ、またまた」

「いや!俺にだって恋心ぐらい持ち合わせているぞ!」

「弦一郎、無理しなくていいんだぞ」


やたら声を張って話す弦一郎を尻目に、俺と精市はまた顔を見合わせた


「そうそう、真田はそういうイメージ無いし、無理に話に入ってこなくて良いから」

「・・・いや、いつか話そうとは思っていた、俺にも好きな人が出来たんだ」

「え!!本気かい?」



精市が目を輝かせて彼の話に食いつく

そうか、彼もそういう年頃になったんだな、と俺は心の中で感心していた



そもそも俺だって昔から恋心くらい持ち合わせている

ただ、それを人に言うつもりになれないのは

やっぱりアイツの態度もあるだろうし、自分がアイツに振り回されているのが悔しいからだろうか


話が盛り上がる中、半分程度に聞き流して

俺は先ほどのなまえの表情について考える事に決めた



そもそもあの顔を彼女にさせたのは間違いなく俺のせいだろう

昼休みの結果をわざわざ丸井に言った俺が悪い


丸井はいつだって本気だ、その気持ちは俺にはよく伝わる

「その試供品って制度さ、俺に適用したって良いよな」そう言われた時に「そうだな」としか返せなかった俺が悪い


なまえがどこまで本気なのか、いつだって測りきれない

しかし、今日の表情を見る限りじゃ彼女は本気で俺と付き合うつもりだったのだろうとは推測できた


厄介な事になってきたのは、何日も前に感じた事だが

今日の出来事は、なまえの機嫌を大層損ねただろう



「蓮二はどう思う?絶対その子も真田の事好きだよね!」

「・・・」


きっと、今日に限っては彼女からメールや電話もこない気がする

俺がメールすれば済む問題だが、なんて切り出していいのか分からない

電話だときっと上手く伝えられない、これからメールの文章を練らなければならないだろう


いや、果たして本当にメールで良いのか?

こういう事をそんな安易な物にまかせて良いのだろうか




「おーい、蓮二ー聞いてる?」

「・・・いや、悪い、聞いてなかった」

「そ、そうか・・・だがもう一度言うぞ、そのだな・・・」



弦一郎がぽつりぽつりと喋りだす

どれだけ俺がこの場所で何かを考えた所で今日の結果を変える事はできない

俺は自分の考えを振り切って、彼の話を真剣に聞く事にした



「つまりだな、俺は恋文を貰ったんだ」

「は」

「下駄箱に入っていたんだ、朝」

「赤也から、また果たし状とかじゃないのか?」


顔を赤らめるという表現がまさにふさわしい弦一郎を見て俺は驚きながら言う


「あはは、蓮二、それもう俺が言ったから」


精市はくすくす笑いながら俺の肩を叩いた


「で、中身はどんな物だったんだ?」

「それがな、メールアドレスだけ記載されていたんだ」

「ほう」

「どこの誰かは分からないが、俺はこのアドレスにメールを送るべきなのだろうか」

「待て、弦一郎。本当にアドレスだけか?それだけでお前がメールを送ろうと思うなんて俺には想像がつかないぞ」

「ううう」


どうやら図星だったらしく、恥ずかしいのか怒っているのか分からない程、彼の眉間にしわが寄った


「じ、実はだな、す、す、す・・・」

「よし、真田、手紙を俺等に見せろ、判断してやるよ」

「な!!」

「そうだな、それからでも遅くないだろう」

「き、貴様等・・・人の純粋な思いを・・・なんだと思ってるんだ!」

「真田、俺等の仲だろ?」

「さぁ、弦一郎、寄越せ」



肩を揺らす精市と目を合わせながら吹き出すのを堪える

このぐらい真田のように純粋なら、俺も苦労はしなかったし

何より、事をこじらせる事も無かっただろう



「馬鹿もの、誰が見せるか!誰が!」

「あはは!嘘だよ真田、お前の好きにしたら良いさ」

「そうだな」

「な!な!な!人の気持ちを弄びおって!!」

「だって、まさかの真田がラブレターって・・・俺なんか最近そういうの無いのにさ」



真田の肩を叩きながら励ますように精市が言う

おい、待て



「最近って10日前に貰っただろう、俺のクラスの女子に・・・嘘はいけないな精市」

「10日って最近の出来事に入らないだろ?」

「き、きさま・・・」



弦一郎が震えるように精市を睨むが、ニコニコと笑う精市には弦一郎の気持ちは伝わっていないようだ

まさか恋の話を3人でする日がくるとは思っていなかった



「蓮二は?本当は何かあるんだろ?」



精市がニコニコ笑ったまま、俺を見た

目の奥はいつものように笑ってはいない

ここでようやく、俺は彼にはめられた事に気付く

弦一郎の話も本当の事だろうが、精市が本当に聞きたかったのはきっと俺の話だ




「そういう事か」

「蓮二、素直になったらどうだい?俺達に話してみろよ、お前の恋バナってやつ」

「精市、恋バナとはなんだ?」

「真田・・・黙れ」




どうやらなまえに連絡する前に同じくらい厄介な奴に捕まったらしいな

立ち話もなんだからと、近くの公園に向かった

精市は我れ先にと2つあるブランコに腰掛けたので、俺は開いてるブランコに座る

弦一郎は少しだけ顔をしかめたが、ブランコの側にあったタイヤに腰掛けた



「へぇー、じゃあ蓮二はブン太の恋敵だったんだ」

「けしからんな」

「蓮二はずっと好きだったんだね、その子の事、そういえば仲良かった気がする」

「たるんどる」

「もー、真田だまれ!」

「なっ!!!」



俺の話をあらかた引き出した精市がまとめるように喋っている

ただ弦一郎は弦一郎らしい反応で、俺は肩の力が抜けるように笑った



「こんな話を3人でする日が来るとは思わなかった」

「そうだね、俺等ってテニス以外の話ってマトモにした事無い気がする」

「まったくだ」




顔を見合わせて3人で笑う、なんとも言えない空気感を先に破ったのはやはり精市だった




「蓮二はさ、どうするの?結局ブン太に譲っちゃったんでしょ?」

「俺だったら絶対に譲らん」

「ははは、真田には聞いてないから」

「む」

「俺は・・・」



俺は結局どうしたかったのか

丸井に話したのは、そうしなければまた気まずくなるのが嫌だったからだ

丸井の押しに負けずに、俺がなまえと帰っていれば良かったのだろうか

今頃、丸井はなまえと上手くいってしまったのだろうか



「俺は一体どうしたいんだ?」



思わず出た言葉に精市と弦一郎は顔を見合わせた

すると精市が堪えきれないという感じで大声を出して笑った

精市の乗っているブランコはグラグラと揺れ、俺の座っている板にまで振動が伝わって来る

弦一郎も何か気付いたのか、息を軽く吐いて笑った



「蓮二って、普段あんなにデータデータ言ってるのにさ、こういう時にはデータ使わな・・あはははは!!!」

「精市に同感だ」



ふたたび、ブランコの鎖がガシャガシャ音を立てる

こういう時に何のデータを使えというんだ?

俺は上手く考えがまとまらない頭で考える


ただ精市が馬鹿笑いしてる時、その通り相手を馬鹿にしている時だ

ひとしきり笑い終わった精市が息を整えるように深呼吸した



「ふー、面白かった、な!真田」

「少し笑いすぎだ、これではまるで蓮二を馬鹿にしてるようだ」

「馬鹿にしてるんだって!」

「けしからん!」

「だって、自分の約束した事、ブン太に押し付けて俺達と帰っちゃうんだよ?馬鹿だろ」



挑発するような目をして俺に言う



「データにさ、出てないの?俺が聞く限りじゃ、その子・・・蓮二の事がすっごい好きなんだと思うけど?」



なまえが俺の事をすごい好き?そんなはずは



「蓮二ってそんなに鈍いっけ?その子の事、好きすぎて・・・ああ!まさに、これが恋に溺れて・・・あははっは!!!」

「精市!それ以上笑ったら俺が許さんぞ!蓮二が許しても俺が許さん!」

「さな・・・あははっは!!!ごめんごめん、蓮二があんまりにも天の邪鬼になってるから」



焦ったように弦一郎はタイヤから立ち上がり、精市のグラグラと揺れるブランコの鎖を掴んだ

そして俺の方を見下ろして言う


「蓮二、お前がどうしたいかなんて、とっくに俺にも精市にも分かっている。あとはお前が分かれば良いだけだ」

「・・・」



俺は彼の顔を見上げながら言葉を待つ

すると弦一郎は急にゆでダコのように耳から頬まで赤くした



「その、つまり、蓮二、お前はその、じょ、女子と付き、付き合いと、付き合いたいんだろうが!!!」



最後の方は公園に響き渡るような声で怒鳴るように叫んだ

丁度公園の横の道路を歩いていたご老人が驚いて体を揺らす

ソレを見た精市は、もう耐えられないという顔をしながらゲラゲラと笑い始めた



「さ、さな・・・うるさいし、はずかし・・・あははっははっは!!」



あまりにも精市が笑うので、俺もだんだん面白くなって、つい笑ってしまった

そうか、なんだ、そんな事か

俺の考えすぎだったようだ



「2人には悪いが、これから行く場所ができたから、俺は帰るぞ」

「む!」

「その子と上手くいったらさ、俺等にも紹介してね、だって俺等が2人のキューピッドにな・・・あははは!」

「精市、そんなに笑うのなら言わなければ良いではないか!」

「だってさ、言いたくなるじゃんか!初恋バナだよ!!言っとかなきゃ!」


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