さん

昼休みも終わりに近づく頃

俺はメールでの呼び出しに応えた結果、図書室のドアをくぐる


ドアに一番近い席、なまえが頬杖をついて座っていた

音に気付いてコチラを一瞥したが目線はすぐに逸らされてしまう


辺りを見回せば、遠くの席にポツポツと立海生が読書にいそしんでいた


心の中で深くため息をついてから彼女の横に座ってみる

ブスっとした態度は変わらない、彼女の機嫌は右肩下がりだ


自分で呼び出しておいて、何も言わない

いつもの事だが


何も言わないのを良い事に俺はついでに持ってきた本を広げて読書をする事にした

何を言ったって、彼女から喋らなければ無視をされるのは長年の経験だ


数分たった頃、服の裾をグイっと引っ張られて、読んでいたページが勝手にめくれた



「なんで付き合ってるのに連絡のひとつも寄越さない訳?」

「返事はしただろ」

「蓮二から連絡してほしかったの!」



そもそも本当に付き合っているのかという疑問が頭を渦巻く

俺の事なんて、大して気にもとめていないと思っていたが


どうやら違うらしい



「お前の化粧品達はお前に使われるだけだ、自分からは動かないし、粉も叩けない」

「どういう意味?」

「俺の事をお前が試すんだろ?試供品が自分から使ってくれとは思ってないという事だ」



本から目を離して、彼女の顔を見る

意味を考えているのだろうか、小首を傾げた様が妙に似合っている


こういう、いちいち女らしい仕草は昔から彼女に備わっている





「よく分からないんだけど、蓮二は私が好きって事で大丈夫?」



その言葉に、思わず舌打ちを打ってしまう

仕草なんかどうでも良くなる

コイツは、よくもまぁ、いけしゃあしゃあと



「どうしてそうなる」

「どう考えたって、そうなるの、違う?」



俺が何をしたって、何を言ったって

コイツの中にある俺への認識は変わらないらしい


そもそもコイツのこの自信はどこから出て来るのだろうか


俺は彼女に告白した事は無いし、ここ1年は確実に距離をとっていたつもりだが

どうしてそうなるんだ

思わずまた、舌打ちをしてしまった


俺がコイツを好きだと?

それを全否定できない自分が情けない


俺が舌打ちをついたのを見て、彼女の表情はみるみるうちに機嫌が良くなっていくのも気に喰わない




「ねぇ一緒に帰ろうよ、付き合ってるんだし」

「・・・そもそも本当に付き合っているのか?お前の気まぐれに付き合わされる俺の気にもなってみろ」

「付き合ってるよ、そう言ったじゃんか、違うの?」

「ああ、違うと思っていた」



機嫌が良くなったはずの、彼女の表情が消える

機嫌が悪い時の顔や笑う顔には慣れている


ただ、無表情な顔を見た事が無かったせいか

急に心臓を掴まれたような気持ちになった


その顔、やめてくれ

まるで俺を知らないみたいな顔をしないでくれ




「じゃぁ、ちゃんと言うね、私と付き合って下さい」

「・・・」

「断っても良いよ、そしたらもう、蓮二とは話さないし、呼び出したりもしない」



表情を変えないまま、なまえは顔を俺から背けてしまう

コイツのこういう高圧的な態度が嫌いだ

それを見て、鷲掴みされたままの心臓を潰されそうになる


俺もコイツも、嫌いだ



分かってるくせに



俺がなまえと距離を置いたのは、俺が苦しかったからだ


気付いたなまえは、俺が自分の傍から離れないようにしていたのも知っている

でも、それは、ただ自分の所有物が近くに無いという事が不安なだけで


距離を置いただなんて甘い表現は間違えているな、俺は呼び出されたら結局会いにきてしまっていた


結局、俺は、コイツが好きなんだ

その気持ちが簡単に変えられるなら、届かない距離まで離れる事が出来たはずだ


俺の行動は小学生か

好きな子の気を引きたいだけじゃないか



「お前は・・・このまま俺が断って、俺が居なくなっても良いのか?必要すらもう無くなったのか?」

「それが嫌だから、付き合おうって言ってるの「遠回しに一緒に居ようよ」って、蓮二は頑固だし、相変わらず頭も固いね。付き合っての返事はイエスかノーだけなのに、なんで質問するの?」

「・・・」

「本当に付き合うなんて断っても良いよ、そしたら私も、本当に蓮二を諦めるから」



ここで断れば本当に終わるのだろう、なまえの目がそう言っている

頑固なのはどっちだ

いつも自分の思い通りにならなきゃ気が済まないくせに


ふと丸井の事が頭をよぎる

あんな曖昧な事を言ってしまったが、結局俺はここでイエスを選択してしまうのか

そうしたら丸井になんと言えば良いのだろうか



なまえの目は少し潤んできたようにも見える

こんな顔をして、俺をどうする気だ

あっさり、「飽きたから別れる」とでも言うのだろうか





「嫌だ」

「じゃあ付き合う?」

「・・・ああ」

「じゃあ一緒に帰る?」

「・・・ああ」



そう言った所で、ようやくなまえの顔に笑顔が戻る

同時に掴まれていた俺の心臓も解放された


チラリと他の生徒が気になって見たが、特に俺たちの話に興味は持っていないようだ



「帰るのは良いが、俺は部活がある、だから」

「知ってる」



なまえと一緒に帰るのなんて、小学生の時以来じゃないだろうか

いや、中等部の部活を引退した時にも何回か帰ったか




「図書室に居る、たまには携帯いじんないで蓮二みたいに本でも読むよ」



そう言うと、俺の手元にあった本をとりあげられた



「なまえが本か・・・この寒い秋空に、桜が咲くな」

「ふふふ、やっと私の名前、呼んでくれたね」

「今までも呼んでいただろう?」

「ふふふ、どうだか、コイツとかお前とか言ってたくせに」



笑っている彼女は可愛らしい

ずっと笑っていれば良いのに



「ねぇ、秋空に桜が咲くって・・・どういう意味?」

「花が季節を間違える、よくない事の前触れだ」

「そんな事言っても、蓮二が遠回しに私の事を好きだよって言ってるようにしか聞こえないね」



もう何回目になるか、思わず舌打ちが出る



「あはは、本当に蓮二って分かりやすい」

「どういう意味だ」

「そういう意味よ」



意味深に笑うなまえを見て、また舌打ちを付きそうになったが

なんとかこらえた、俺の悪い癖だな
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