いち


「あれ・・・なんかこんなので良いの・・・、そんなもんなのかな?」


だって何にも無いし、実感とか手応えとか・・・そういうのが無い

そもそも付き合うって何?愛って?

連絡なんかくるはずないのに、授業の間の休み時間になる度に携帯と睨めっこしてしまう


いや、そんな、そもそも蓮二から連絡がきたこと無いし

いや、私から連絡すればすぐに返ってくるのは分かってるんだけど

だっていつもそうだから

連絡してこないくせに、返事だけは誰よりも早い


机の上で携帯を置いたまま、連絡を待つ私は滑稽で仕方ない




不躾な赤い髪の毛が視界に入って私の携帯を覗き込んできたので思わず

机の上にあった携帯を掴み取ってブレザーのポケットに入れた


なんでコイツは、こう、デリカシーがないのだろうか

普通、人の携帯を覗き込むなんてしないでしょ?



「なまえ、変な顔してどうした?ポッキー喰うか?」

「いらない、太ったらヤダもん」



しかも、すぐお菓子を人に食べさせようとするし

1人で食べてれば良いのに

差し出されたポッキーを押しのけると彼は分かりやすく不満そうな声を出した




「ポッキーくらいじゃ太らねぇよ」

「・・・説得力ない、なさすぎ」



服に隠れてても、ブン太に胸があるのを私はしっている

横で急に着替え始めたりするものだから、見たくなくても見える時があるから

彼の肉付きはバッチリだし、胸が私よりあるんじゃないかと思った瞬間の事だからよく覚えている



「で、どうしたんだよぃ、不細工のまま顔固まってんぜ」

「ムカつく」




はぁ、と自然に溜息が出る

授業の合間の休み時間は暇で、どうにも昨日の放課後の出来事から何か変わったとは思えない

付き合うって何なんだろう

そもそも私と蓮二は、昨日の出来事から本当に付き合いはじめたのかな



「不細工いえよ、ぶさいくぶさいく」

「うるさいなぁ、ブン太」

「隣の奴が不細工な顔してたら気になるだろぃ、言えよ」



しつこい、本当にしつこい

ブン太の顔をジーっと睨んでみても、彼に特に変化は無い

どうやら言うまでしつこくされるみたいだ、困った


蓮二と一緒の部活に所属している彼に、この話をしてみても良いのだろうか?

きっと蓮二は嫌な顔をするに違いない


ブン太って声とか大きいし、あっという間に言いふらしそうだし


でも、付き合うって誰かに言ってみれば実感が出て来るものなのかな

「おめでとう」って言ってもらえば、「良かったね」でも良い



「・・・実はさ、昨日からだけど蓮二と付き合うんだよね」

「はぁ?誰が?」

「私が、蓮二と、付き合うの」

「何ソレ?まじ?」



予想していた返事とは違う、「おめでとう」も「よかったな」も無い

あるのは疑いの眼差しと不穏な声色だけ


本当か嘘かなんて私が蓮二に、もう一回確認したいぐらいなんだけど




「多分」

「・・・なんだよぃ、お前と柳って単なる幼なじみだったんじゃねぇの?」

「昨日までは」



隣の赤い髪の毛は、さきほどよりも、もっと不満そうな声で言う

彼の手ににぎられていた、ポッキーの袋がバキバキと音をたてる

ああ、これはポッキーが折れた音だろうな

全部折れちゃったら食べるの面倒くさそうだな、ポッキーって




「好きなのかよ」

「え?」

「なまえが、柳の事を、好きなのかって聞いてんだよ」

「別に、好きだけど」

「そういう好きじゃねぇって前言ってた事ねぇ?」

「うん」

「じゃあなんで付き合うんだよ」




質問が終わらない彼と目を合わせてみれば、いつもより真剣な顔をしていた

恐喝されてるってこんな気分なのかも

彼が、なんでこんなに強気な口調で攻めてくるのか分からない



「付き合うなら、蓮二が良いから」

「は?」

「初めて付き合うなら、蓮二が良いって直感、蓮二は私の事嫌いじゃないし」

「・・・訳分かんねぇ」



そう静かに言った後、彼の手でにぎられていた銀色の袋からポッキーがボロボロと床に落ちた

落ちたポッキーは床に軽く弾かれて四方に散らばる


もうすぐ休み時間は終わるっていうのに

私とブン太の話は終わりそうにない


どう話していいのか分からずに、沈黙が続く


なんで、そんなに怒ってるの?

それだけは聞いてはいけないと、頭が警鐘を鳴らしているし


これは可能性の問題だ


それを聞いて、得する人はこの場所には居ないし

居心地が良くなる人もいない



なんだかんだで私は浮かれてたんだ、そう気付いて自己嫌悪に落ちる

自己満足の為に周りを巻き込む必要は無かった

こんな時に浮かぶのは「お前が悪い」という蓮二の言葉だし


早く授業が始まるチャイムを鳴らしてほしい


ブン太と目が合ったままで気まずい、だけどこれ以上余計な事を話す必要はない

時間は過ぎるものだ、待てば良い


こんな状況で私が彼に何か言うのは違う

ブン太は仲の良いクラスメイトであって、険悪な関係を作りたい訳じゃない


先に目をそらしたのは、ブン太だった



「悪ぃ、なんでもない」

「・・・うん」

「あーあ、ポッキー勿体ねー!お前も手伝えよ、片付け!」

「授業間に合わないよ」

「あー・・・じゃー、後で手伝えよ」

「うん」




内心、ホッとした

彼が話題を変える気になってくれて良かった


そのまま何事も無かったように授業がはじまった

そういえばと思い、ポケットの中にいれている携帯をそっと見れば着信のランプが点滅していた


もしかして


そんな気持ちがわき上がり、そっと携帯のボタンを1つ押せば待ち受けにメール着信の表示が出ている


更にもしかしてという気持ちが出てきたが、横から視線を感じた気がしたので携帯をそのまま机の中にしまう



横目でブン太を見ればブスっとした顔でわざわざ頬杖までついて

案の定コチラを見ていた、それもガン見で
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -