ぜろ
試してみたい、試してみたいの
そうだ、なんでも試してみなきゃ分からないと思う
どこかで聞いた事ない?経験がものをいうんだって言葉
そう、人間って、人から聞いただけじゃ分からないものなんだよ
ねぇ、初めて買う化粧品だって試してみなきゃ分からないでしょ?
それと同じなの
どれだけ言葉や考えを重ねたって、伝わらない時は伝わらない
あのね貴方も試してみたいの、別に貴方を化粧品ぐらいの気持ちで見てるとか
そういうつもりは・・・
でも、恋愛だって試してみなきゃ分からないじゃない
「だから俺を試供品代わりに使うのか?」
「だめ?初めて付き合う人は蓮二が良いの」
閑散とした図書室には私と蓮二の声しか響かない
小さい頃から、ずっとそう思ってきた
初めて付き合う人は絶対に蓮二が良いって私は知ってる
どんな事があっても蓮二に裏切られた事なんかない
「俺の事を好きでもないくせに、俺がそんな単なる踏み台になるとでも思うのか?」
「私、蓮二の事が好きだよ?」
「笑わせてくれるな、その好きは恋愛感情じゃない」
私の方を見ないで下を向いたまま笑う彼を見て私は不思議な気持ちになった
その捨て台詞みたいな言葉、全然面白くもないのになんで言うんだろう?
「私の好きが恋愛感情じゃないって蓮二は何で分かるの?それって蓮二が、私に恋愛してるからでしょ?」
「・・・」
舌打ちが聞こえたけど私は聞こえない事にして言葉を続ける
簡単に事が終わるってちょっと思ってたけど
意外に貴方がいじけやすい事を忘れていたし、こんな言い方しか出来ない事を理解してくれてても
気持ちはきっとついていかない
「私に恋してる人とじゃなきゃ・・・、だって付き合うなんて他人同士の事なんだから、どっちかが好きじゃなきゃ上手くいくはずないじゃない」
「じゃあお前が好きな奴と付き合えば良い。俺じゃなくても、他の奴が出てくるだろ」
「・・・(強情・・・)」
「だからこの話は・・・」
「じゃあ「蓮二くん」は「私」と付き合いたくないの?」
また舌打ちが聞こえた、だけどそれも知らないフリ
最初の恋愛だって・・・片思いだなんて、きっと不毛になる恋なんかしたくない
それだったら私が愛されてる方が幸せじゃない?
「蓮二は私のことを放って置いて、変な男と付き合って?私が見ず知らずの誰かと結婚しても良いの?すごーくすごーく勝手な男と付き合えば私、ずーっとずーっと泣くよ?蓮二は私が泣いてても良いの?」
「な」
「蓮二以外の男とそういう事しちゃったりするんだよ?それでも良いの?」
「恋愛した事すらない16の女が言う台詞か?」
「女は16で結婚できるし、周りの子はもっと早いのに・・・ねぇ蓮二はそれで良いの?」
舌打ちが聞こえた
私は蓮二の舌打ちの意味は知ってるし、蓮二だってなんで自分が舌打ちしてるか分かってるでしょ
「・・・俺で試してみて、結果が良かったらどうする気だ」
「そんなの、結婚するに決まってるじゃない」
「そうか」
「そう」
「ならばお前の「試供品」になってやろう」
蓮二はそう言うとさっきみたいな笑い顔じゃない笑い方をして
私の頭に手を伸ばした
そして髪の毛を何度か触るように撫でた後、何も言わずに
図書室から出ていった