授業も時間も流れるように過ぎていく

授業中、教師の言葉はあまり耳に入らず、気付けばもう4時間目だ


俺の頭の中で朝の出来事がグルグルと渦を巻いている

これ以上考えなくても、自分の気持ちは決まっているのに

それでも頭の中はみょうじなまえの事でいっぱいだった


言いたい事は決まっている

だけど、どう伝えていいのか分からない

そのせいで渦巻くものは中々消えてくれない



「起立ー、礼ー」



間延びした号令で、とうとう4時間目も終わってしまった

放課後は部活がある、チャンスは昼休みしかない


俺は教科書を手早く片付けて席を立ち上がった

アイツの所に行かなきゃ


そう思ったが、肝心な事に気付き、また自分に苛立ち思わず机を叩く


どん、少し大きめの音が鳴って

その音に反応してか昼休みが始まったばかりの教室の中が静かになった


自分に視線が集まる、だが逆に都合は良いかもしれない


「・・・誰か、みょうじなまえのクラスが何組だか知らないか」


そう聞けば、余計に視線が集まった


「え、A組じゃないの?」

「A組!」

「日吉、みょうじさんと何があったか知らないけど仲直りしろよ!」

「みょうじさんって少し変わってるけど、多分いい子だよ!」



誰かが喋り始めたのを皮切りに、ざわついた教室の中を見渡せば何故だか数人の女子や男子に応援された

なぜだ?



「日吉がイライラしてると教室の空気が凍るっていうか、もうやめてくれ!」

「みょうじさんと付き合ってから日吉くん、なんか少し優しそうに見えるもん」

「誰か要約して伝えてやれー」

「総合的に言うと今日の日吉は異常に怖いから、約束破っただか、喧嘩しただか、なんだか知らないけど、早く仲直りして教室の空気を元に戻してくれ」


一斉に喋られて、どう答えて良いか分からない

今朝の事なのに、なんでこう、噂というものは早く人に伝わるんだろうか

よし、無視して行こう

そう決めて俺は教室のドアへ向かって歩きだす



「ひ、日吉くん!な、仲直りしに、行くんだよね?」


教室を出る寸前で女子の声が響いた、俺は教室の中を振り返れば

何人かと目が合って、期待された眼差しを受け取る

ため息が出そうになったが、きっと期待されているだろう言葉を俺は口に出した



「・・・そのつもりだ」



教室の中から大きな歓声があがった、それを聞いて俺は早々に教室のドアを閉めた

なんなんだ、コイツら

思わず先程のため息がもれてしまった



「日吉くん」



全く予想してない方向から声が聞こえて、思わず肩がはねる

声の方を見れば、昨日からやたら見かける女が立っていた


またコイツか・・・今度は躊躇うこともなく、ため息が出た



「日吉くん、私と付き合って。私、ずっと前から日吉くんの事が」

「断る、そもそも昨日からなんなんだよ、誰だよ、お前」

「え・・・わたし、中等部の頃・・・クラス一緒で・・・」

「覚えてない」

「・・・っ、私が・・・!日吉くんに付きまとってる女を、邪魔だったんでしょ!?」


私が?


「そうか、お前か」


ようやく話が見えてきた、コイツか、どうりで


「余計な事、してくれたのは」

「だって!昨日だって!」

「誰だか知りもしないヤツに言う義理は無い、そう思っただけだ」

「え、私ずっと・・・!」

「知らない」

「ひど、・・・ひどい・・・だって、私、ずっと」

「そうか・・・ハッキリ言わなかった俺が悪かったのか」



面倒だから、ただそれだけ

勝手に何を思われようが言われようが関係ないと思っていたが



「・・・」

「俺の周りをうろつくな、みょうじなまえの周りもだ、アイツは、いや俺の女に手を出すな」



言う時は、言わないとな

また面倒に巻き込まれるのはご免だ

泣き出してしまっている女を目の前にして、多少戸惑いはしたが

そもそもコイツが原因なのだから同情をかける必要もない

余計な時間をくってしまった

その場を後にして、A組へと向かう


A組のドアは開いていて、中を覗けばまさに昼休みという光景だった

見回せば、昼休みには似つかわしくない、机に突っ伏した女が目に入る


アイツだ


俺は教室の中に足を踏み入れ、机に突っ伏したまま動かない女の机の側まで来た

みょうじなまえを心配そうに見ていた女が俺に気付くと、きつく睨まれる



「何?」

「ソイツに用がある」



女に、こんなにきつく当たられたのは初めてだった

視線に負けないように目をそらさずに言えば、女はフッと睨むのをやめて突っ伏したまま動かないアイツの肩を揺すった



「・・・なまえ、顔あげなよ、日吉くん来たよ」

「・・・亜美の嘘づぎ・・・若ぐんが居るはずないぼん」

「嘘なんかついてないって」


涙声なのか鼻が詰まっているのか、前者であってほしい

どうやら顔をあげる気はないみたいだな・・・


「なまえ、そのままで良いから聞けよ、1回しか言わないからな」

「・・・若ぐんは・・・わたぢの名前なんが知らないぼん、やっぱり嘘だ・・・」

「嘘じゃないって言ってるじゃん、もー」



名前なんか、とっくに知ってる

これからは、きっと、もっと知っていく予定だ



「俺はみょうじなまえが好きだ」

「急に居なくなられたら調子が狂う」

「別れてなんか、やらない」



数十秒、もっと短かったかもしれない

ようやく顔をあげたなまえと目が合う



「本当に若くん・・・?頭ぶったの・・・?全然切れ味良くない顔してるよ?」

「うるさい、用件はそれだけだ」

「付き合ってて、良いの?私、若くんの邪魔で、若くん可哀想だって言われて、私、全然若くんの事考えないで、自分の事ばっかで」

「そんなことない」

「・・・本当に若くん?やっぱ変」

「うるさい、今日は7時半だ」

「え」

「待ってろよ」

「・・・うん!絶対待ってるよ!・・・あれ、これ、夢?」



(黒から白へ、染まったのは俺自身)

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テーマ「人外ファンタジー」
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