日吉くんがみょうじさんと付き合い始めた



なんでもない昼休み

私の耳や記憶に毎日のようにテニス部の噂が入ってくる

大体の噂は信憑性も特にないので、聞き流す程度で十分過ぎる

テニス部の誰かが、どんな事をしていたかという報告会のようなものだから


その中でも最近日吉くんが女の子と付き合い始めたという話は、しつこいぐらい私の耳についてきた


私はモチロン嘘だと思う、どうせ根拠とかもない噂だし、テニス部の噂はいつも正しいとは限らない事を知っていたから

それに日吉くんが誰かと付き合うはずなんかない、だって日吉くんが一番大切にしているのはテニスで

テニス以外の事に興味なんか無いって本人は公言している


それに、日吉くんがこんな時期に、そんな事するはずがない

跡部様から部活を引き継いだばかりで、最近ますますテニスに対する気持ちに磨きがかかっているのを私の目が確認している

それに彼みたいな人がみょうじさんと付き合うだなんて信じられない

彼女と話した事はないけど、つい最近までうちのクラスの男子と付き合ってたらしいし、先輩とも付き合っていたって聞いた

確かに彼女の顔は綺麗かもしれないけど、男をコロコロ変えるような女と日吉くんは釣り合わない

久しぶりに不安さえ過ることのない噂だと思う、だってあり得ない状況ばかりだ


「ねぇ、あの噂って本当なのかな?」

「付き合ってるってやつ?そんなの嘘だよ、だって日吉くんの恋人はテニスでしょ」

「で、でも、告白の現場に居たって人達は皆、噂じゃないって言ってるよ?」

「どうせ誰かが面白がってるだけでしょ?日吉くんの事なら私が一番知ってるんだから!」




そう、日吉くんの事なら私が一番知っている、そういう自信がある

昔からずっと見てきた、中等部の時は3年間同じクラスだったし

高等部でだって、ずっとずっと、日吉くんのファンをしてきたのだ

大会だって、練習試合だって、全部見に行ってる自信があるし

いつだって応援してきた



「でも、鳳くんと話してたりするの、最近よく見かけるし・・・本当なんじゃないの?」

「あ、私も見たよ、みょうじさんと鳳くんが話してるの!」

「でしょー?なんか今までの噂より、少し本当っぽいよね・・・」

「あー確かに、鳳くんと日吉くん仲良いもんね・・・」



いつも一緒につるんでいる彼女達の言葉で多少の不安を覚える

確かに今まで、信憑性の無い噂ばっかだったし、今回もそうだって思う

でも、今回の噂は1週間で収束するどころか3ヶ月も続いている

なんだか、おかしい

そんなの私だって分かっているけど、でも、信じられない

それに鳳くんの名前まで出てくるとなんだか気になる

だって、あの日吉くんが、そんなはずは



「確かめてみたら良くね?」

「噂だったら一緒に帰ってるんだよね、テニス部の練習って終わるの遅いし、それまで皆で遊んでれば良いじゃん」

「そうだよ!そしたらハッキリするじゃん!」

「そうしよ!ね?」

「今日の放課後開いてる人ー?」

「あ、私バイトだ」

「私は大丈夫ー」

「私もー」



私が彼をずっと好きで居られるは、彼が本当にテニス一筋だからかもしれない

誰かが彼に告白したって、結果は決まっている

テニスの邪魔になるような事はしない、そう言うに決まっている


前に同じクラスだった時、日吉くんとは何度か喋った事はあるけど、私はそれだけでも十分だった

それだけで十分だったのは、彼がどの女の子にも同じ接し方をするからであって


でも、もし、誰かが、それを奪ってしまっているなら

私は許せないし、認めない、日吉くんの事は私が一番知ってるんだから、付き合うなんて、日吉くんの意に反している


「ねぇ、一緒に行くでしょ?」


そう声をかけられて、私は首を縦に振った

信じてなんか、ない

でもこの噂に少なからず振り回されてる自分にはもう飽き飽きしていた





テニス部の中でも日吉くんが一番遅くまで練習している

それを知ってる私の意見で、7時すぎにカラオケから学校へ向かった

何にも無ければ、それでいい

ただの噂だったと、今までどおりで居る事ができる



遠目だが、校門の辺りで、携帯をいじっている人影を見つけるまではそう思っていた



「うわ、誰か居る事ね?」

「しー、静かにしてよ!もう」

「だって!ここからじゃよく見えないし、本当にみょうじさんか分からないじゃん!」

「じゃあ2人ぐらいで、校門まで行ってみる?」

「そうしよ、じゃぁ私行くー!」



ここからじゃ、あの人影が本当にみょうじさんかさえ分からない



「私も、行く」

「じゃ一緒に行こー!」

「うん」



話しているフリをしながら、校門へと少しずつ近づく

携帯をいじっている人影は、どうやら女の子みたいだ


距離はあと3メートル


こんな時間にうろついてるのを怪しまれないように、忘れ物をとりにきた体を装っていく事にした

人影をあまり見すぎないようにして、校門を通る



「ねぇ、見た?・・・みょうじさんだったよね、本当なのかな」

「・・・」



確かに横の子が言うように、携帯をいじっていたのはみょうじさんだった

でも、単に付きまとってるだけでしょ?

本当に一緒に帰ってるなんて分からないじゃない、それをハッキリさせるために来たんだから


横の子になんて返そうか考えていると、男の子の声が聞こえた



「あー、今日もこんな時間になっちゃったね」

「先に帰れば良いだろ」

「えー、1人より2人の方が効率良いじゃん」

「別に頼んでない」

「日吉って本当に口悪いよね」

「知るか」



鳳くんと、日吉くんだ



「そんなんだとなまえちゃんに嫌われるよ?」

「・・・それならそれで良い」

「うわ!可愛くないなー」

「お前に可愛く思われてる方が気持ち悪い」

「あははは、確かに」


みょうじさんの名前が聞こえた

本当なの?

私は思わず、すれ違った2人を振り返る

すれ違う時だって目すら合わないし私の存在すら、気付かれてない、でも問題はそこじゃないんだ


「若くん!長太郎!お疲れ様ー!なんかいつもより早かったね!」

「なまえちゃんもお疲れ様、今日早かった?俺はいつもより遅かった気持ちになってたよ」

「え、だってまだ8時前だよ?」

「もう8時だよ、ねぇ日吉」

「もう少しやるつもりだったんだよ、俺は」

「俺のせい?」

「どうでも良い、帰るぞ」

「あ、若くん!待って待って!じゃあね長太郎!」

「あはは、じゃあね日吉、なまえちゃん、また明日」


何を見てるのか分からない

なんで?本当なの?

嘘でしょ



「本当だったんだ、噂・・・」

「違う」

「え?」


違う、絶対にない、みょうじさんが日吉くんに付きまとってるだけで


「みょうじさんが、日吉くんに付きまとってるだけ」

「でも・・・」

「私が1番、日吉くんの事知ってるんだから!私が違うって言ったら、違うの!!」

「う、うん、そうだよね、ごめん、なんか・・・、あ!皆の所に戻ろうよ!皆待ってるよ!」

「・・・そう、だね」




そこから私の時間はいつもよりも数倍早く過ぎていった

他のクラスの子や、日吉くんと同じクラスでみょうじさんの告白を見ていたっていう子にも詳しく話を聞いた

もっと、もっと詳しい事が知りたい




「皆に協力してもらいたい事があるの」

「なに?協力するよ?」

「私、日吉くんに告白する」

「え」

「でも、その前に、みょうじさんが日吉くんに付きまとってるのをどうにかしたいから、手伝って」

「・・・う、うん」

「日吉くん、優しいから、きっと自分では何もしないと思うの、だから、私がやる」

「・・・」

「手伝って、くれる?」



「・・・も、もちろん!ねぇ、皆!」

「うん、手伝う、日吉くん可哀想だもんね」

「そうだよ!日吉くん可哀想!」

「皆手伝うよ、ね?」



みょうじさんなんかに付きまとわれて、可哀想な日吉くんを

私が助けてあげるんだ



「ありがとう、皆」

「ううん!友達じゃん!」

「ね!」



変な条件のせいで、日吉くんは付き合うはめになったんだ

絶対そう

私はそんな変な条件、つけない

あんな女より、絶対私の方が日吉くんとうまくやれる



だって、ずっとずっと見てきたから

貴方の事なら、なんでも分かる






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