早々と昼飯を済ませて、俺は読書をはじめた

最近は大会が近かったせいで昼も練習だったせいか、なんだか久しぶりに本を開いた気がする

昼休みの少しざわついた教室の中でも、本を読めば多少静かになった

本に集中して5分くらいたった頃

控えめな声で「日吉くん、ちょっと良い?」と声をかけられ、本から気がそれた瞬間だった



「お願いします!好きなんです!付き合って下さい!」

「断る」



そしてその俺にとって平凡な昼休みが見知らぬ女の大声によって壊される

顔はあげないように、本から目を逸らさぬように思考を巡らせる

ただその前に決まりきった言葉が口から漏れた

この大声の主は一体なんなんだ、告白というものをどう思ってるんだろうか、時や場所とか考えないのだろうか

最終的には、誰だコイツ、という所をグルグルまわり始めたので考えるのをやめた




「わー!それもカッコいい!断るって一言だけなのもカッコいい!」

「・・・話はそれだけか?」



この女は、ちゃんと「断る」という言葉の意味を理解したのか?不安になるほどテンションが高い

今まで告白しに来た奴は沢山居たが、断わる時にこんな反応をされたのは初めてだったし

一言だけ断りを入れた後に、いきなり100%の発声をかましてきて

クラス公開告白というのも初めてだった



「そ、それだけです、でも好きなんです!あ、友達!友達になってもらえるだけでも良いんです!よろしくお願いします!」

「テニスの邪魔になりそうな事はしない事にしてるから無理だ」

「あ!じゃあ邪魔もしません!時間削ったりもさせません!!日吉くんの暇そうな時を狙って話しかけたりするぐらいは良いんじゃないでしょうか!」


ため息が漏れるように出た


俺はこういう直球ど真ん中で攻めてくる奴は苦手だ

コイツは間違いなく鳳タイプに違いない

困った事になった

あしらうことが出来るか不安になる


俺は決して顔はあげずに本を見ているフリをする

もう既に本には集中できなくなっているのだが、顔をあげたら余計に断りにくい

時間を割くのが面倒だから付き合うつもりがないのに、俺が面倒な部分を的確に言われるのも困った

だがこんな奴自体が面倒だ、間違いない

読書を続けようにも、続けさせてくれなさそうだな

今が読書中で本当に良かった、テニス中に絡まれなくて



「お願いお願いお願い!お願いしまーす!!」


俺は本についている細い柔らかい紐を読みかけのページに挟んで、本を閉じた

椅子に座ったまま、初めて不躾な女の顔を見上げる

どうせマトモな身なりすらしていないだろうと多寡をくくっていたが

見上げた先に居た女はごくごくマトモな髪型の女が居た

上から下まで一通り見れば、マトモに制服を着こなしている

顔付きも綺麗な部類に入る

そうか、マトモじゃないのは中身だけか


途中、目が合ってしまえば、思わずそらしてしまいたくなるぐらい彼女の目は輝いていた


やばい

この目は、俺が苦手なやつだ

子供がお菓子に目を輝かせているような光景



「はぁ・・・どこか他の事に使えば役に立ちそうなぐらいの情熱だな・・・」

「やーっとこっち見た!わー!かっこ良い!!」


コイツの声はどこを対象にして出しているのだろうか

目の前に居る俺に言ってるんじゃないのか

どうしてそんな売れない芸人みたいに声がデカイんだ

横目で教室の中を確認すると、入口に驚くぐらいの人集りができていた

クラスメイトも、あっけに取られた顔をしているし

俺はどうやったら、この状況が抜け出せるかさえ分からない

ため息混じりに、つい、本音が声で出る


「・・・もう勝手にしてくれ」

「え、なんだって!!やったー!じゃあ付き合おう!!」


大きな声が教室に響く

もはやうるさかったはずの教室には彼女の声と俺の声しか聞こえていないんじゃないか


おい、待て、付き合おうだと?

友達だのなんだのについてのみ、どうでも良くなっただけなのに

どうして付き合うまでハードルが下がったんだ

この女の思考回路はどうやらぶっ壊れているらしい

俺が、この女のペースに巻き込まれていくのが分かる、ダメだ


「そこは、違うだろ!」

「勝手にしろって言ったじゃんか!付き合おうよ!邪魔しないから!メールとかもしない!テニスの邪魔も絶対にしない!」

「・・・」


それは既に友達以下じゃないのか?

きっとこう考えたのは俺だけじゃないはずだ

しかし、考えようによっては使えるのかもしれない

ようは他の女の牽制ぐらいには使えるんじゃないかって事だ


「ただ、暇な時にだけ、私と話したりするだけでいい!お願いお願いお願い!」

「はぁ、その約束、少しでも破ったら俺の周りで大声出すのをやめてくれるのか?」

「え」


思わず言ったが、これは我ながら名案じゃないか?

この場を収める事もできるし、告白してくる女も蹴散らす事ができる

ついでにコートの周りでギャーギャー言ってる奴等も消えたら良い

これだけ人が集まってるなら、付き合うというのも噂ぐらいにはなるだろう

後は俺の都合の良いタイミングでこの女を振れば良い

もう少しハッキリ制約さえつければ、わざわざ俺が自分で言葉にしなくても片付けられる


「メールはしない、電話もしない、休みの日は会わない、テニスの邪魔だからテニスコートの周りをうろつくのもダメだ、俺からは話しかけないし、校舎内でも話しかけてくるな」

「一瞬たりとも隙がない!でもそれを守れば付き合ってくれるんだよね!じゃあそれでオッケー!」

「ああ、その代わりに今の守れよ」

「でもひとつ提案します!」

「なんだよ」

「下校と登校だけでも一緒にして下さい!!」

「・・・」



登下校、一緒・・・いや、早めに歩けば俺の家から学校までは15分だ、単純計算で一日合計30分

それに俺からは話しかけないのも制約のうちに入ってるし、校舎内では話すタイミングがない

登下校くらい一緒にしなきゃ、目の前のコイツも納得しなさそうだな・・・



なにより

向こうから制約を破ってもらわなきゃ、面倒だ


「それも全部、日吉くんの時間に合わせる!朝も朝練の時間に、下校も部活の自主練の後ででオッケー!」

「分かった、やれるもんなら、やってみろ」



俺は手元にある挟まっていた紐を軸に本を開き、また読書を始めた

それを境に、教室内にいつも通りの喧騒が戻ってくる

女は満足したのか、それとも早速約束を守っているのか足早に立ち去っていった

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -