たまたま見かけてしまった彼に、私の心臓は見事に打ち抜かれてしまった



決してコート上に立つ彼と目が合った訳じゃない、私が一方的に見つめた結果だ

私はあまりの急な出来事につい、その場にしゃがみ込んでしまった

他の人とは違う動きに、まず目を奪われ

そのまま見ていれば、切れ味の鋭い動きに目を奪われた

最終的に顔を見てみれば、やっぱり切れ味の良い目をしていて




「なまえどうしたの?見ないの?ああ!またポイント決まったよ!」




違うコートを見ながら言う友達の言葉に耳を傾けつつ、またフェンス越しの彼を見る

途中までは普通に見れたのに、なんで急に


ほら、汗を腕でぬぐう仕草も、ラケットをじっと見つめる仕草も

全てが輝いてみえる



困った・・・コレは恋に違いない

しゃがみこんだまま、しばらく見つめていると

友達も立って見るのが疲れたのか、私の横にしゃがみこんだ

手をウチワ代わりにあおいでいるが、それにしても暑い

私はちょっと別の意味で熱い



「うわー、それにしてもあっついね、見たいけど疲れちゃうなー」

「亜美、私ね」



しゃがみこんだ亜美のそばで耳打ちをする



「ん?」

「あの人に、一目惚れしちゃったんだけど」



そういって、また汗を腕でぬぐっている彼を指差した

ボールをポンポン弾ませて、サーブを打つその姿も凛々しい



「あの人・・・って、日吉くん?」

「分かんない、あ、今、ボール打った人!」

「ああ、じゃあ日吉くんだよ」

「・・日吉くんって、言うんだ、あの人」



暇なら、テニス部の応援に行こう

その言葉に乗っかって本当に良かったと思う

亜美に感謝しなきゃな、そう思って隣の友人をつついて小さな声で「ありがとう」と伝えた

今まで、テニス部の応援なんかしてなかったし、ウチの学校がやたらテニス部を押すのは全部生徒会長のせいだと思ってたけど

そうじゃないんだ、きっと


私はもう、日吉くんしか見えないぐらいの勢いだけど

確かに他のテニス部の人達の試合もすごかった


まだ見てはないけど、きっと生徒会長の試合なんて、普段の演説以上にすごいに決まってる



「ねぇ、亜美、日吉くんって何年生?先輩?」

「・・・同じ学年だよ、日吉くん知らなかったの?次期テニス部の部長になるってもっぱらの噂なのに」

「だってテニス部なんか全然、興味なかったんだもん」



テニス部に対して周りがキャーキャー言ってたのは知ってるけど

あんまりにもキャーキャー言われてるし、沢山部員が居てよく分からないというのが本音だ



「興味ないテニス部に、一目惚れ?」

「日吉くんは、もう特別、ぜんぜん他の人よりカッコいい、生徒会長よりもカッコいい」

「・・・私は生徒会長の方がカッコいいと思うけどな」

「亜美、生徒会長目当てで来たんだ・・・今知ったよ」



もともと他の子と試合を見に行く約束をしていたらしいんだけど、その子が夏風邪で高熱を出してしまったらしい

夏風邪の子にすら感謝しておこう



「だって、この大会に負けちゃったら、生徒会長の試合を見れるのだって最後になるかもしれないし、まぁ、負けないだろうと思ってたけど、なんか雲行きは怪しいよね」

「ルールは知らないけど、そんな感じなの?」

「そんな感じなの」



あの派手な生徒会長は、なんだかずっと居るような気になってたけど

3年生は、あと1年もしないうちに卒業しちゃうんだもんな



「ねぇねぇ日吉くんって、どんな人?亜美は知ってる?」

「うーん、私は話した事ない。あ、噂だけなら知ってるけど」

「噂?」

「一目惚れ早々で悪い噂なんだけど、日吉くん、告白してきた子を千切っては投げ千切っては投げって感じで、速攻振るらしいよ」

「・・・え、なんかそれすらもカッコいいと思っちゃうんだけど、速攻振るって男らしいなぁ・・・」



あの切れ味の良さそうな目で、女の子を千切っては投げ・・・する日吉くんは簡単に想像がついた

雰囲気だけだったら、まだ生徒会長の方が優しそうに見えなくもない

生徒会長以外、テニス部の人が分からないから、思わず生徒会長と比べちゃうけど



「それならそれで良いんだけど、だから・・・よく聞くのは、日吉くんに告白とかしても報われなさそうって」

「そっか、でも、もう決めちゃった!」

「え」



亜美が驚いた顔で私を見る

なに、その「またまた」みたいな顔、私は本気なんだから!



「私、月曜日、学校で告白する!」

「えー!」

「だって、好きになっちゃったんだもん!情熱と根性で、なんとかして告白してくる!」

「そのよく分からないバイタリティだけは、ほんと、尊敬するよ・・・」

「よーし、頑張るぞー!あ、日吉くんのクラスって知ってる?」

「知らないけど・・・、なまえ、つい先週男バレの先輩に振られてたじゃん」

「う、それは、そうだけど」


確かに、男バレの小池先輩に振られた

私から告白して、2週間だけ付き合って、「うざい」と言われて振られた



「1ヶ月ぐらい前は隣のクラスの小林に振られたじゃん」

「いや、まぁ」



確かに、隣のクラスの小林くんにも振られた

もちろん私から告白して、3週間付き合って、「うざい」と言われて振られた



「なまえって顔はそこそこ良いのに、その惚れっぽい性格は考えものだね・・・」

「それを言われると、照れる以外できないんだけど、えへへ」

「反省とか、学習したら?」

「・・・はい」




そう、そうなのだ

私は、超絶、惚れっぽい女なのだ

そして、超絶、うざい女でもあるのだ


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