理由さえあれば(日吉)

「・・・なまえさん、なんですか?」

「いーっしょーにーかーえーろー」

「ヘタクソ」



何の歌だか分からないが、音痴だと思う

今日は部活も無く、ただ家に帰ろうと鞄を手に持って教室を出れば彼女が居た


3年の彼女が、何故2年の教室の前に居るかなんて

「なんですか?」なんて聞いたけど、彼女がココに居る理由を俺は知ってる




「いっしょーにかーえーろーう」

「嫌です」

「家までー送ってあげるよー、チャリでー」

「モチロンお前がチャリを漕ぐ」

「・・・お、おう」




俺は、なまえさんのこういうとこが嫌いだ

こういうとこって言うのは、彼氏が居るくせに俺と下校しようとする所




「林さんは良いんですか?」

「しらない!誰それ!しらない!」

「喧嘩でもしたんですか?」

「しらない!若と一緒にかえろーっと」



他の女子と違って、なまえさんはサッパリした性格だと思う

ただ、他の女子と違って、ものすごく気移りが激しいとも思う

数ヶ月でコロコロと彼氏が変わる

そんなに彼氏を変えるなら、いっそのこと付き合わなければ良いのに


と、話を聞いてると思う




「あ、そうだ」




一緒に下駄箱まで歩く、特に会話という会話は俺達に無い

大体は彼女が一方的に喋っているだけだと思う


靴を履いて、昇降口を出れば俺より先に出ていたなまえさんが思い出したように手を打った




「若、今日Wiiやろう、Wii」

「は?」

「Wiiだよ、知らないの?ゲーム」

「嫌です」

「うぃー」

「1人でやれ」

「マリオやろー、マリオー」

「知るか」



彼氏が居るのに、他の男と遊ぶのはどうかと思う

しかも、この言い草だと2人だけで遊ぼうと言ってるんだろうけど

更にどうかと思う



「じゃあ、夕ご飯奢ってあげよう、そうしよう、どうだ!」

「良いですよ」



だから、何か理由が無ければ絶対に一緒に居たくない

俺は嫌なんだ、理由も無く、彼氏が居る女と遊ぶっていうのは


一緒に帰る理由は、俺が楽したまま家に帰れるから

一緒に遊ぶ理由は、ただ飯が食べれるから


そんな理由が無ければ、俺はなまえさんと一緒に居ない




なまえさんが自転車を取りにいってる間に携帯を確認する

登録に無いアドレスからメールが届いていた



「あ、彼女できた?」

「いらない」

「若もてるのにー」



勝手に携帯の画面を覗き込む所もどうかと思う

約束通り、彼女が自転車の前に乗り、俺は後ろの荷台置きに座る

ガタガタ揺れながら自転車が動き出す

校門をくぐり、5分ぐらいは平穏に進んでいた


「あー、疲れたー、私の運命の人はどこに居るんだろう」

「知らないです」

「もー、やーだー」



彼女の声が震える、不味い、この展開は



「泣くなよ」

「やーだー」

「はぁ・・・」





だから急に泣いたりしないでほしい

俺に出来る事なんか限られているから


俺から進んで彼女に何かをしたくないんだ

なまえさんから理由を出して貰わなきゃ俺は何も出来ない


慰める事だって俺の役目じゃない

何があったかなんて知らないし、聞きたくない

そう今だって


泣いてるなまえさんの背中を見ながら、俺はどうしていいのか分からない




「若ー、泣けるー」

「ちゃんと前見て、こげ」

「景色がぼやけてよく見えないー」




既に鈍行運転になっていた自転車は、とうとう前に進むのを諦めて止まった

袖でゴシゴシと顔をこすっている彼女を横目に、俺は自転車のサドルに座った





「今日だけだからな」

「前も同じ事言ってたよ」

「早く乗れ、誰かに見られたらまた面倒になる」

「あはは、若が泣かせてるみたいだもんね、ごめん」

「は、や、く、の、れ」

「うん」




理由さえあれば




貴女が俺と一緒に居たいのは、いつも泣きたい時

そう、理由さえあれば貴女と一緒に居られる







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