空から降ってきた(仁王)

それは本当に空から降ってきたのだ、嘘なんかじゃない

本当なんだ、本当ほんとほんとなんだもん

嘘なんかついていない




「ねぇ、くだらない話をしてもいい?」

「いっつもくだらんじゃろ」

「まぁまぁ、そう言わないで」


部活もしなくなって、私は教室にいる時間が増えた

それは夕日に照らされている仁王も、きっと一緒


部活を引退したのは、もう随分前になる

あんなに一生懸命うちこんでやっていても、終わりはくる

その終わりは別に唐突にきた訳じゃない

少しずつ時間が迫ってきて、ちょっとずつ居心地が悪くなって

最終的に引退という言葉で追い出されていった

私は少なくともそう感じた

そして、きっと仁王も




こうやって夕陽に照らされた教室で仁王と話し込む日がくるとは思ってもみなかった

部活がなくなって呆然と

自分の席から教室の外にある夕日を眺めるようになったのはやっぱり随分前になる




「あのね、昔なんだけど、小さい頃ね」

「ほー、昔話もたまにはええのう」

「空から声が降ってきた事があるんだよ」

「お前・・・いつから不思議ちゃんになったんじゃ」


仁王が茶化すように言うからイラっとする

この話が本当だって、彼だったら信じてくれそうだと思ったのに


「ふしーぎーのー」

「聞けよ」

「・・・はい」


ついには下手くそな音程で歌いだしたので、少しだけキツ目に言ったら黙った


そもそも仁王に話すのだってお門違いかもしれない

この話はその頃の友達は結局誰も信じてくれなかったのだし

家族だって笑ってるだけで信じてはくれてなかった気がする

挙句、友達には嘘つき呼ばわりされたり・・・


そうなると自然に中学生になるころには誰にも話さなくなっていた

それでも彼に話してみたくなったのは、きっと夕陽があの日と似ていたからに違いない

そう、それ以外に理由なんてない




その日の事は今でもよく覚えている

小さな公園で名前も知らない子と一緒に遊んで、1人で家に帰る途中

声がは空から降ってきたんだ、「遊ぼう」って


「私ね、家に帰るのが忙しかったから断ったの、遊べないよって」

「ちょ、なんじゃ、怖い話なら他の奴に」

「そしたらブワーって風がふいてきて、急に雨が降り始めて、すぐ土砂降りになってさー」

「・・・」

「でも私が家に着いたら、風も土砂降りもピタッとやんだんだよ」

「遊んでほしかったんじゃ」

「おお・・・そっか、遊んでほしかったんだろうなーって今思った」

「遊んであげれば良かったんじゃ」

「そうだよねー・・・そしたらびしょ濡れにならなくてすんだのか」


そうかそうか、私と遊びたかったのか


「・・・誰だったんだろ?神様的な何かかな?」

「さぁーのー」

「なんでこの話、仁王にしちゃったんだろ、むなしい」

「え、勝手にガッカリされた俺もむなしい」


それもそうだね、と笑って私は机の横にかかっている自分の鞄を取った

夕日はどんどん色を落としていく

部活動の時間だって、もうすぐ終わるはずだ

そろそろ帰らなきゃ真っ暗になる


「じゃあ俺も帰るかの、なまえちゃん家まで一緒に帰ろっと」

「え」

「今日、もし空から声が降ってきたら3人で遊べば良いんじゃ」


そう笑いながら仁王が言った



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