ぐしゃぐしゃメガネ (蓮二)

視力がどんどん無くなっていったのはいつの事だろう。

目が良かったら、こんな気持ちにはならなかった。



小学生の頃はメガネをかけていなかった気がする。

中学生の頃は、確かメガネをかけた方がいいのか悩んでただけな気がする。

じゃあ実際にメガネをかけ始めたのは高校に入った時か。



じゃあもう2年はこのメガネと一緒だったんだな。

しゃがみんこんだ視線の先には、レンズが割れてフレームが折れ曲がった青いメガネ。

なんで、こんなにグチャグチャにされた。

もう少し、方法は無かったんだろうか。




たまたま職員室によった帰りにテニスコートのそばを通ったのが間違いだったんだ。

遠回りしてだっていつも通りのコースを使って下駄箱に行けば良かったんだ。

誰かに体ごと、大きくぶつけられて、膝をついた時に、もう一度、誰かにぶつかった。

その拍子にメガネがどこに飛んで行った。

そう、まさに飛んで行ったので、ある。



急にしゃがみこんでしまった私が悪いのか?

てか、一言ぐらい謝ったらどうなの?

テニス部のおっかけが全ての彼女達に、私のメガネなんて存在していないのか?



立ち上がってメガネを探すが、目が悪いのにメガネが無かったら全部が全部ぼやけて何もうまく確認できない。

立って探すのは、無理と判断したので、四つん這いになってメガネを探す。


最悪というものは重なるもので、きっとここが渡り廊下じゃなかったら追っかけの女の子だって通らなかっただろうに。

そしてここが渡り廊下じゃなかったら、メガネだって大人しく校舎内の廊下に落ちるだけですんだろうに。




なんか、コントとかで「めがねめがね」と探すのがあったような気がする。

まさに私はその「めがねめがね」状態になってしまったのだ。

しかし、めげずにメガネを探すと、ようやくそれらしい輪郭が見えた。

それに手を伸ばしてみると、変わり果てた私のメガネがそこにはあったのだ。

砂だらけになっているし、まさかこんな所まで飛ばされるだなんて。



もう復元不可能な形になってしまったメガネをとりあえず、制服のポケットに押し込む。

下駄箱まで、私はメガネ無しのこの視力で、たどり着く事ができるのか?

不安しか無いが、もうそうするしかないのは明白だ。



「みょうじどうかしたのか、見た感じは死にそうだが」



急にどこからか男の人の声が聞こえた。

視力がなくなると聴力も曖昧になる気がする。

ぼやけた世界を確認すると、後ろ側に誰かが立っていた。




「・・・先生!聞いて下さい!テニス部の追っかけの子が私のメガネを破壊していったんです!おかげで何にも見えないし、帰れない!!!!」

「誰と間違えているのか知らないが、俺は先生では無い」

「え?じゃあ誰?」



この距離じゃ、全然誰だか分からない。

私は意を決して、誰かに近づいてみる。

名前を呼ばれたから、きっと知り合いで、男の人の知り合いなんて先生ぐらいしか。



「・・・だれだ」

「柳だ」

「や、柳くん?」

「そうだ」

「嘘だ」

「嘘ではない」

「柳くんなんて、同じクラスだけど、話した事無いしテニス部だし、私の目が見えないからってからかってるんでしょ!!」

「分かった、じゃあそう言う事にしておこう」

「・・・本当に柳くんなの?」

「ああ」



頭がまわんない、確かに柳くんは同じクラスだけど。

むしろ彼の部活の人、もしくは彼がキャーキャー言われてるから

私のメガネが駄目になったんだ、いらいらいら



「八つ当たり、しても良い?」

「構わない」

「私のメガネ返して、何にも見えないし、メガネだって安い訳じゃないし、明日からどうすれば良いの!?」

「すまないな」

「嫌よ!明日絶対に休んでメガネを作り直してきてやる!請求書だって柳くんに押し付けてやる」

「分かった」



なんかよく分からないけど、柳くんに八つ当たりした。

それに一つ一つ、柳くんは簡潔に答えてくれた分、私は大分落ち着く。

でも、一方で本当に私のメガネの事の重大さが分かってるのかと思い、ポッケにつっこんどいたグシャグシャのメガネを取り出して、柳くんだろうぼやけた人物に押し付けた。




「ひどいな、これは」

「全部、柳くんのせいだ!」

「ああ、そうだな」



理不尽な事を言っているのは私のはずなのに、何故こうまで冷静に言葉を返す事ができるんだろう。

自分がだんだん恥ずかしくなってきた。



「・・・ごめん、柳くんのせいじゃなかったのに」

「いや、あながち間違っていない、テニス部が関係していたのだろう、なら俺の責任でもある」

「う」

「まだ4時過ぎだ、今からでも新しいメガネを作りに行って間に合う」

「・・・うん」

「俺が付き合ってやる、行くぞ」

「え!」



そう言われるや否か、私の手は柳くんに引っ張られてぼやけまくった校舎内をすすむ。

あれ、これ、なんだ?



「お金、ないから、いいよ!」

「請求書をテニス部に送れば良いだろう」

「ええええ!」

「さっき自分でも言ったじゃないか」

「あ、あれは、つい勢いで」



手を引っ張られたまま、昇降口まで着た。

同じ様な靴入れが並んでいて、ぼやけた視界では自分の靴が全然分からない。

しかし、それも柳くんがあっという間に私の靴をとりだして足下に置いてくれた。



ぐしゃぐしゃメガネ





「ああ、そうだみょうじ、メガネじゃなくて、コンタクトにしたらどうだ?」

「え!そんなの入れた事なくて怖いよ!」

「そうか・・・、俺はメガネをかけてない今のみょうじの方が好みなんだがな」
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