教室に戻ると多少の視線を浴びた、しかし浴びただけで誰かが話しかけてくるわけでも無く、私は机の横にかけた鞄の中からお弁当を取り出した。
自分で作っているぶん開けた時の楽しみとかは特にないけど。
いただきますと、心の中で呟いて玉子焼きを口にいれようとした時に普段と違うそれは起こった。
「暁さん、だよね?」
頭の上から声がふってくる、先生の声ではないそれが私を一気に緊張させる。
ぎぎぎと、顔をあげるとそこには綺麗なウェーブが髪にかかった男の子がいた。
あれ、本当に男の子かな、でもスカートじゃないし、男の子だよな。
「はじめまして、俺ね、幸村。」
「こん、こんにちわ、はじめまして」
「ふふふ、こんにちわ」
やっぱり男の子だった、なんだか楽しそうに笑っている彼はすごく可愛い。
はじめて同級生に声をかけられたせいか、それとも彼に声をかけられたせいか、ドキドキと鼓動が自分の耳に届く。
「自己紹介もすんだし、本題に入ろうかな。実は日直の事なんだけどね、俺と暁さんが今日の日直なんだよ、知ってた?あ、その感じじゃ知らなかったかな、黒板に書いてはあったんだけど、暁さん1時間目しか居なかったから気付かなかったのか、それとも気付いててサボって俺に号令を押し付けたのか、少し気になっちゃってさ」
「・・・ご、ごめんなさい」
ニコニコ笑いながら言い切った彼の言葉を聞きながら、分かった事があった。
彼は怒っているのだ、たぶん。
「いいんだ、知らなかったんだよね」
「ほんとうに知らなかっ」
「本当ごめんね、くどくど言っちゃって俺の悪い癖なんだ。でも言わずにはいられないし・・・悪いね、朝も日直の事で話しかけようと思ったんだけど、なんかボーッとしてたからさ」
彼は私の言葉を当たり前の様にさえぎった。
その割には至極申し訳なさそうに色々喋りながら、私の前の席の椅子を引っ張り出して当たり前のように腰をかけた。
「美味しそうなお弁当だね、俺もココで食べていい?」
「え、いいけど」
「良かった、俺、こんな性格のせいで一緒にご飯食べる人居なかったんだ」
なんだか申し訳なさそうに彼は笑うと、手際よく私の机の上に彼のだろうお弁当セットをひろげていた。
あれ、何してるんだろうこの人。
思考が止まる。
耳に入る音は彼がお弁当箱のフタを開けた音だけだ。
そういえば幸村君が私に声をかけた時からクラスの中がとても静かになった気がする、さっきまで騒がしかった気がするのに。
なんでかなーとそっと目線だけで周りを覗き見る。
何故か皆が皆、私達2人を見ていた。
私は慌てて視線を目の前でお弁当を食べ始めた幸村君に戻す。
って、とうとう食べ始めてるんだけど。
「あれ?暁さん食べないの?」
「幸村君、クラスの人みんな、こっち見てるんだけど・・・!」
私はなるべく小さな声で彼に聞いた、すると彼は周りをくるっと見回して、先程からの声の大きさで言う。
「本当だね、皆どうしたんだろう、うーん、俺がさっきまでイライラしてて、本人に文句言いにきたのに、一緒にご飯食べ始めたからじゃない?あ、あと外部入学の君がめずらしくて誰も話しかけなかったのに、あえて俺が話しかけたこと?うーん、確かに自分から話しかけるタイプじゃないしね、俺って」
「・・・ごめんなさ」
「いや、本当に良いんだよ、日直の事は俺の勘違いだったんだもん。逆に本当にごめんね。だから謝罪のつもりで俺がクラスに全然馴染めてない君とご飯を食べようと思ってさ、ちょっと皆もさ俺等に注目するのやめてよ、暁さんが食べづらいだろ?」
「・・・」
なんだろう、顔が綺麗でニコニコしいる分、失礼極まりない言葉もなんだか優しく聞こえる気がする。
そして勘違いした代わりに私とご飯を食べてくださるらしい。
彼の一言で周りにざわめきが戻り、なんだか分からない緊張感も消えた。
幸村君は相変わらずニコニコしながらお弁当を食べている、久しぶりに誰かに笑いかけてもらったかもしれない。
やっぱり誰かと居た方が楽しいな、1人で居るのにも飽きたんだろうな。
そんな事を考えていたら不意に涙が込み上がってきてしまった。
そして瞬きをすれば涙は、はらりと音をたてて落ちた気がした。
幸村君は一瞬だけ目をパチクリとさせて驚いた様子だったけど、すぐにまたニコニコと笑った。
それを見て私はまた嬉しくなって、とうとう制服の袖で拭かなければならないほど涙がこぼれた。
「あ!!幸村が泣かせた!!」
「ふふふ、泣かせちゃった」
「幸村謝れ!」
「北原はなんでそんなに馬鹿なのかな、これは暁さんのうれし涙だよ」
「え、そうなの?」
「ちょっと誰か箱ティッシュ持ってないの?このままじゃ暁さんの目が腫れてっちゃうよ」
「あ、あたし持ってるよ、はい」
「ありがとう、早希。ほらこれ使いなよ、早希のだから後でお礼言ってね」
私の涙は加速するいっぽうで、顔すらあげられないし、周りに沢山の気配を感じながら泣くって恥ずかしい。
ほら、可愛い顔がそれじゃあ台無しになっちゃうよ、幸村君の声が聞こえた。
すると誰かが私の手に余るほどのティッシュを持たせてくれる。
私は制服の袖から目を離して、すぐさまティッシュを顔に押し付けた。
まだまだ涙が止まる気配はないみたいだ。
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