「あいつ大丈夫かなー?なんかやっぱり心配だなー」

「う、うん、大丈夫かな・・・」



ガランゴロンと出てきたココアを2本持つ。冷たい、けど、今の私には丁度いいかもしれない。

さっきの、口パクを間違えてなければ。いや、間違えてたら間違えてたでまた恥ずかしいんだけど・・・。




「なんか仁王って意外に倒れる奴なんだよ、昔から」

「そ、そうなの?へー」




落ちてきたばかりのコーラを早速開けながら北原くんが言った。

さっきの言葉が引っかかりすぎて、北原くんの声が少し遠い、いや、教室に帰ってから考えよう。そうしよう。北原くん、語り始めそうだし、ココアを奢って貰ったのに失礼だ。

教室へと歩みを進める私達は思ったりゆっくりな歩幅だった。



「おう、中等部の時もさー、今みたいな感じでグッタリしてるの助けた事あるし」

「え、初めてじゃないんだ!その割には・・・名前」

「そーなんだよ!名前!アイツ助けてもさ!具合悪い時だからか知らないけど忘れられるんだよ!俺のこと!」

「なんか・・・さすが、北原くん・・・いや、さすが、におーくん?」

「次の日、心配して聞いてみたら「覚えとらん、誰・・・ん?えーと」とか言われたんだよ!」



北原くんはコーラを持ちながらなのに、器用に身振り手振り付けている。

におーくん、それにしても大丈夫なのかな。

階段をのぼりながら、やっぱり考えてしまうのはさっきの言葉。



「ははは、それでもまた助けてあげるんだから、北原くんスゴいと思うよ」

「・・・え、なんか、うん、・・・りんちゃん、俺に惚れんなよ!」

「それとこれとは話が違う」

「・・・く!」

「早く課題やらなくて大丈夫?」

「いや、きっと、早紀が、俺の代わりに全部やってくれてるに違いない」



きっと彼の良い所は課題以外に全て使われているんだなぁと実感しながら、私は教室のドアを開けた。




---





静かな空間に足音が響く、静かすぎて自分の心臓の音が大音量で響いてるみたいだ。

そもそも、本当に、あの口パクは合っていたのだろうか。


色んな事が頭の中を走り抜けていく中、私は重い扉を開けていた。


もう6月中旬になれば吹きつける風はジメジメしていて、なまぬるい。

この前、来た時はただ寒かっただけだが、今日は今日でなんだか嫌な空気だ。

さきほどまで浮かれていた気分をあっという間に打ち消す様な、違う様な。


そう、私は屋上に来ている。

なんでって、さっき、におーくんが



「おー・・・りんちゃん、来てくれたんじゃな」

「わ」

「いた」



耳元で急に声がして私の体は跳ねた。

跳ねたついでに彼の顎を肩でガツンと一発いれてしまった。

いや、これは間違いなく私に非は無いと思う。



「きゅ、急に現れるのが悪い」

「それもそうじゃ」



顎をさすりながら、彼はつまらなさそうな顔をして言う。

つまらなさそうなにおーくんは、何故だか体育に使う長袖長ズボンを着用していた。

テニスジャージから体育ジャージへの着替え?



「急ついでに、もういっこ急なお願いがあったりなんたり」

「な、なに?」

「実は、やっぱりもう限界・・・」



へなへなへな


効果音をつけるなら、まさしくそんな感じ。

におーくんは、なんだかパンパンに膨らんでいる学生鞄を抱えたまま、その場に座り込んでしまった。


座り込んで、小さくうずくまった彼に、なんて声をかけていいのやら。




「だ、だいじょうぶ?具合悪い、よね、熱とかあるの?」

「わからん、怠い、つらい」



そのまま彼は黙りこくってしまった。

どうしよう。

いや、待て、えーと、わざわざ、私に屋上に来てと言った理由があるはずだ。

北原くんじゃなくて、わざわざ私に・・・

えーとわざわざ、えーと、


・・・あ



「家まで送っていこうか?」

「うん」



せ、せいかい!



におーくんは、のろのろ動きながら学生鞄の中から大きめのポーチを取り出した。

そして、そのポーチの中から少しだけ茶色がかったロングヘアーが出てくる。

ウィッグというものを初めて見た。

持ってる人っているもんなんだ・・・しかも男の子なのに・・・。



「これ、俺の頭に被せて・・・」

「わー、におーくんってそういう趣味があったんだ」

「そうなんじゃよ、これで俺とりんちゃんが一緒に歩いてても目立たん、はず」

「・・・本当に具合悪いの?」

「・・・うん」




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