「仁王くん!」


柳生の声がコートに響いて、気付いた時には俺は地面とキスをしていた

ボーっとする頭がやたら重い

こういう体験は何回もあるので、自分がどうなってしまったかは簡単に想像がついた


また倒れた、情けないのう・・・



「仁王くん、座る事は出来ますか?」

「・・・ぷり」

「肩を貸しますから、せーので引っ張ります」

「・・・ぷりー」


柳生に言われるまま、引きずるように起こされ、なんとか地面に座る事ができた

それでも頭はボーっとしたままなので視界がぐらんぐらんと左右前後に揺れている


俺の周りにはいつもの仲間達が取り囲んでいるのだが、揺れているせいかどれが誰だか分からない


そんな頭をガシリと捕まえられた

その衝撃のおかげか、ようやく視点が合う

目の前にはニコニコと笑っている幸村が居た



「おい馬鹿、お前ちゃんと食べてんの?」

「馬鹿・・・ひどい」


「ほら、これでも舐めて日陰に居ろよ、馬鹿」

「ぐ、は」



口に甘さがひろがる、急に口の中が甘くなったせいで思わず飴玉と思われる物体を口から出してしまった

やばい、コート汚したら殺される

いや俺が悪いんじゃない、急にそんなの口に押し込む幸村が悪い



「柳生、わるいが仁王をどっかに運んでくれ」

「了解です、さ、立ちますよ仁王くん」

「仁王、今日はもうそのまま帰っていいから」

「う」

「いいから寝てろよ」



何も反論できないまま、俺は柳生に引っ張られるように木陰まで連れてこられた

それにしても情けない



「仁王くん、今日は帰りたまえ」

「・・・やぎゅー、こんな俺を見捨てていくんじゃな・・・」

「毎度毎度、迷惑ですから、こうでもしない限り、・・・つまりは自己管理をしてください」

「痛い言葉じゃのう」



言うだけ言って柳生はコートへ戻っていった

確かに、俺は自己管理が足らない方だとは思っとったけど

一人暮らしは結構大変なんじゃよ、いや、俺の責任か



首にかかっているタオルで冷えた汗を拭く

どうやら今日は帰った方が良さそうだ

しょうがない



何度か深呼吸をしているうちに段々と体は落ち着いてきた

このまま寝てしまった方が帰れるんじゃないだろうか

そう思ってタオルを顔にかけて視界を暗くする


よし、寝よう、誰か起こしてくれるだろう



そう思って目を閉じる

すると顔にかけてあったタオルが急に、俺の顔を撫でるようにしてから消えた


風も吹いてないのに、どうして


目を開けて周辺を確認すると少し離れた所にタオルとテニスボールが転がっている


コートの方を見れば今起きた事の予想がついた

幸村がコチラを見て笑っている


口パクで「帰れ」と言って、幸村はあっという間に練習に戻っていった


周りの連中は俺を見て苦笑いをしていたけど、どうやら俺はココで寝るのはダメらしい

まだ練習中なのに、こんな所で立海テニス部のジャージを来た奴が寝てたら確かにダメか



「もしボールが顔にメリってなったら、どうするんじゃ・・・帰ればいんじゃろ、かーえーれーばー」



俺は独り言を呟いてから、なんとか1人で立ち上がりタオルを拾ってからコートを後にした

はー、歩くのも怠い


そういえば水分もろくに取ってなかった事に気付く

どうせ部室に行く途中に自販機があるから、そこでスポーツドリンクでも買えば良いか



コートを横切る途中でラケットやらラケットバックをどうしようか悩んだが、誰かがきっとどうにかしてくれる事を期待して怠い足を動かし続けた

ようやく自販機の前にたどり着けばお金を持っていない事に気付き呆然とする


飲み物すら・・・飲めん・・・


そうか、今日は厄日に違いない、だから部活中に倒れるし、帰れとか言われるんじゃ

自販機を力なく睨みつける

100円ぐらい落ちてないだろうか


「あれ、仁王じゃんか」


左から声が聞こえた、これは聞き覚えのある声だ

首だけ動かして声のした方を見る

そこには名前は思い出せないが話しぐらいはした事がある奴とりんちゃんが一緒に立っていた


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