「りん、飴くれる?」

「え?いいよ、いつもの飴しか無いけど良い?」


放課後、皆が帰り支度をしはじめ、私も早々に家に帰る準備をしていた

精市に声をかけられ、ポケットの中をまさぐってみたが飴は入っておらず

鞄を開けて、飴の袋を取り出した

3つ手にとって、精市に渡せば彼は満足そうに笑っている



「うんうん、これが欲しかったんだよ」

「あはは、良かった。この飴美味しいよね、可愛いし」

「あんまり飴の種類は詳しくないけど、あんまり見かけないね」

「そうだよね、私も友達から貰い続けてるだけだからドコに売ってるかしらないや」

「ふーん」

「うん、今度聞いてみようかな、どこに売ってるのか」

「じゃ、ありがと、また明日」

「ばいばい」

「ばいばい」


精市はニコニコと笑いながら飴を自分のポケットにいれると手を振って帰っていった

まぁ、彼は部活に向かったのだろうけど


今日は圭子も部活だし、1人でトボトボ帰るだけだ

寄り道の予定も特には無いし


精市に呼び止められたせいも少しあるけど、足が立ち止まってしまった

要するに


「暇だな・・・どうしよ」


家に帰れば、掃除をしたり、ご飯を作ったり、やる事はあるけど

私もイチ普通の高校生だし

そんなに進んで家事をやりたい訳でもない


「うーん・・・」


とりあえず、携帯を取り出す

真新しいはずだった、スマートフォンもいつの間にか角に削れが見えた

雑に扱ってたせいかな、カバーつけようかな


メール画面を開き、侑士からのメールを選択して返信メールを作る

あの飴どこに売ってるの?とだけ打ちこんで、送信した

返事はすぐにこないだろうけど、急ぎの用事でもないし、まぁいっか


新着のメールも特にないし、携帯をまたポケットにしまいこむ


部活でも参加していれば、またこんな事を考えなくてすんだのだろうけど

1人で暮らしてる今、部活をする余裕はきっとないだろうし


どうしようかな


そう思ったまま、教室の真ん中で突っ立っていると

まだ教室に残っていた北原くんが「りんちゃん!暇なのか!」といって肩をドーンと叩かれた



「地味に痛い・・・」

「りんちゃんって部活やってないの?暇人?ボーっとしちゃって!」



肩をさすりながら、北原くんの方を見る

いつも爽やかで元気いっぱいな彼は、精市とは別の意味でクラスの中心人物だ



「部活はいってないよ、北原くんは?」

「俺?俺はバスケ部!」

「部活いかないの?」



立海は部活に力を入れてる学校のようで、大体の運動部は良い成績を残しているらしい

だから運動部の人は授業終了と同時に、教室から居なくなるもんだけど


そんな疑問が浮かんだので、本人に聞いてみると

彼はなんとなく気まずそうな顔をして小さい声でボソっと何か言った

全然聞き取れなかったので、もう一度聞き返すと

ようやく聞き取れる声で北原くんが喋りはじめた



「課題が・・・」

「・・・課題?え、そんなのあったっけ?」

「ご、ゴールデンウィーク・・・さ!」

「ええ!ゴールデンウィークの課題まだやってるの?」

「昨日までは・・・綾瀬とか他の奴も居たんだけど、今日は俺しか残ってない!」

「声張るとこ絶対違うよ、胸張れないと思うけど」


さっきまでの気まずそうな顔はドコに行ったのか、急に元気いっぱいになった北原くんに釘を刺す


「・・・ようするに、俺が、りんちゃんに何を言いたいかというと、暇なら、俺の課題を手伝ってくれると良いと思うんだ」

「え、なにそれ」


急な申し出に、私は思わず聞いてしまう

手を合掌させながら私に深々お辞儀をされて、余計にたじろいでしまった


「お願い!幸村には内緒で!お願い!」

「なんで精市が出て来るの」

「だって幸村に、りんちゃんをコキ使ったってバレたら、俺が大変な事になるかもしんないじゃん!」

「私、手伝うの決定なの?」

「暇なんだろ?さっきもボーっとして携帯してただけだし」

「まぁ」


私が暇なのは確かである

行く場所も無いし、どうしようか悩んでいた所はバッチリ見られていたらしい


「頼むー、俺、もう数学とか全然分かんないしー、イングリッシュも分かんないしー」

「でも、字でバレちゃうでしょ?」

「だから、そういうのをチェックしなさそうな先生のアタリはつけといたぜ!」


そういう分析をしてる間に、早く課題に取り組めば良いのに


「・・・」

「たーのーむー」


北原くんのお辞儀は更に深くなり、合掌された手は比例して上にあがっていく

ここまでされて、暇な私に断る理由は特にない


「いいよ、じゃー手伝う」

「まじ!じゃあイングリッシュ担当な!」

「さっきからイングリッシュって言ってるけど、意味あるの?」

「ない!はい!これ!」


彼はいそいそと自分の席から英語の課題を持ってきて、私に差し出した

ペラペラと薄いわら半紙で出来た英語の課題を受け取り、中身を確認する


「・・・何にもやってない・・・」

「そうなんだよ!だからりんちゃんの字だけで埋まれば先生も納得!」

「・・・良いけど、バレても知らないよ?」

「おっけーおっけー!書いて出す事に意義が有る!」


ニカっと音が出るような笑顔を見せられてしまえば、それ以上何も言えなくなってしまった

私は鞄に閉まった筆箱を取り出して、自分の席の椅子をひく


1回解いた事が有る課題だけあって、中々早く進んでいく

私が2ページ目の最後の問いを書き終わった辺り

北原くんはというと、私の他にも教室に残っていたクラスメイトの早紀ちゃんを捕まえて数学の課題を押し付ける事に成功していた





私が取り組んだ英語の課題は1時間もかからないで終わった

字も普段より大分雑に書いておいたけど、北原くんの字体に似ているかは分からない


それを彼に渡せば、彼は「すげー!もう終わったの!?」と歓声をあげた


お礼にジュースを奢ってやるからと言い、彼は勢いよく席を立ち上がる


「あ、早紀!お前にも買って来る!何が良い?」

「うーんと、ココア、冷たいの」

「おっけーおっけー!じゃりんちゃん自販に行こうぜ!」

「え、北原くん自分のやってる分は?」

「ちょっと休憩!」



きっと彼が課題を終わらせられない理由はコレだな、と口には出さずに思う

あんまり勉強に対して集中力は無いのだろう


教室に残る早紀ちゃんに一言かけて私達は自販機の有る場所へと向かうために歩き出した



「あー、でもりんちゃんに頼んで良かったぜー、あんなに早く終わるもんなんだなー」

「一回やってるからねー」

「皆が提出する前に写せば良かったのに、俺とした事が・・・」

「あはは、残念」



そうこう言う間に自販機のある場所まで着いた

自販機の前には見覚えのある姿があって、私は体が緊張するのが自分でもハッキリと分かった



「あれ、仁王じゃんか」



北原くんがそんな私の事なんか知らずにとぼけた声をあげる

そう、自販機の前に居たのは



タオルを首にかけ、黄土色のようなオレンジのようなジャージを羽織っている

におーくんだったのだ

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