玄関のチャイムが鳴る。
時計に目をやれば20時は過ぎている。
この時間にチャイムが鳴るのは珍しい、セールスや勧誘とかではないはずだ。
もしかしたらテレビ局の集金か?
いや、それはクレジットで払っているはずだし・・・。
地区の集金?確かに昼間居らんしのう。
土日も部活ばっかで家に居らんし。
じゃあなんだ?俺ん家に用事?
管理人からなんかお知らせか?
俺はチャイムが鳴りおわるまで余計な事を考えた。
部活を終えて、汗を流し、今日の夕飯は豚肉の炒め物にするか、うどんにするかを考えている途中だった。
もう一度、念を押されるようにチャイムが鳴る。
このまま鳴らされるのも嫌だし、管理人からのお知らせかもしれん。
まぁ、別に、セールスとか勧誘だったら追い返せば良いだけの話だ。
重い腰をあげ、玄関へと向かう。
鍵を開け、ドアを少し控えめに開けるとおばさんとお姉さんの中間ぐらいの人が居た。
誰じゃ?
「こんばんわ、同じ階の暁です」
「・・・こんばんわ」
暁?・・・りんちゃんの母親?
俺は少ししか開いてなかったドアを全開にした。
「何か、用ですか?」
「あら、すごく大人っぽいのね、娘と同い年って聞いてたけど、ふふふ」
「・・・はあ」
「今ね、同じ階の方にお土産を配って廻ってるの」
ドアを全開にすれば、女性の後ろに人影があった。
りんちゃんと、・・・忍足?
「娘が何かとお世話になってると思いまして、つまらないものですが、お土産です、どうぞ」
「・・・ありがとうございます」
紙袋を手渡される、何のお土産か知らんが、まぁ受け取っておこう。
中年とは言いがたい女性の後ろでは、普段は愛想の良い笑いを浮かべている忍足が無表情だったり。
りんちゃんはニコニコと笑っていたり。
まぁ、忍足が彼女と会っているのは知っていたが、家族ぐるみの付き合いなんか?
・・・いや、りんちゃんの彼氏なんか?
「娘から話を聞いたら、同じ学校なんですってね」
「あ、はい」
「侑士くんともお友達なんですってね」
「・・・まぁ」
侑士くん?・・・忍足の事か?
娘っていう事は、やっぱり母親なんか、ウチの母さんも若いけどりんちゃんの母親も大概若い。
なんだか話が読めないままだが、とりあえずの相づちを打つ。
忍足の方を見れば、なんだか睨まれている気がするのは気のせいか?
「俺は友達になったつもりはないで」
「・・・そんなんお互い様じゃろ」
「りん、ママさんも、もう1個お土産渡すんやろ、はよ渡して、次の家行くで」
なんじゃなんじゃ、なんか気に障ったか?
この前の時よりも忍足が俺に対する当たりがやたら強い。
まぁ、彼氏だったら・・・同じ階に同い年の男が居るのは嫌なもんか。
もう既に1つ貰っているのだが、まだあるの?
「もう、侑士くんったら・・・じゃありん、もう1個のお土産渡して」
「うん、・・・に、におーくん、これどうぞ」
「・・・ありがとさん」
りんちゃんから紙袋を受け取る、忍足の方を見れば、彼も手にいくつかの紙袋を持っていた。
荷物持ち?
「これで失礼しますね、えっとお名前は?仁王くんで良かった?」
「・・・はい」
「じゃあ仁王くん、おやすみなさい」
「・・・おやすみなさい」
なんで3人でお土産?よく分からないまま、俺は挨拶をしてドアを閉めた。
そもそも忍足はなんなんだ?
りんちゃんの彼氏という可能性もモチロン有りそうだ。
じゃあ、幸村が言ってた「りんちゃんが俺を好き」という話は本当に単なる憶測だったという訳か。
「なんじゃ・・・つまらん」
思わず出た言葉に1人でハッとする。
別に、本当に彼女が本当に俺の事を好きだって思っていた訳じゃないのに。
つまらんってどういう事じゃ。
自分でもよく分からない、そもそもそんな接点も無い・・・事もないか。
同じマンションの同じ階、共通の友人、同じ学校の同じ学年。
ただの他人よりは接点がある。
それに、屋上での事も。
「あー・・・分からん」
それにしても忍足が引っかかる、アイツの女だったら、間違いなく「俺の女に手ぇ出すな」ぐらい言いそうだ。
モヤモヤしたまま俺は携帯を取り出して、柳にメールを打つ。
そろそろ柳も、暁りんがどんな性格の女かデータが揃った頃だろうし。
俺は簡潔に「質問、暁りんと忍足の関係は?」とだけ書いて送った。
どうせアイツの事だから、すぐに返事がくるじゃろ。
紙袋を開ければ、野沢菜という漬け物と、りんごのお菓子が入っていた。
もう、今日の晩飯はこの漬け物に決定じゃ。
りんちゃんか受け取ったもう1つの袋には、りんごのかぶり物をしたご当地キティちゃんやらドラえもんやらのストラップ。
なんかシュールじゃ。
俺はドラえもんのストラップの袋を開けて、とりあえず携帯につけてみる。
携帯にストラップを付けてる途中で柳からメールの返信がきた。
「付き合ってると噂されるぐらい仲は良い、お互いに付き合ってるかという事を聞かれれば否定はしないようだ・・・気になるのか?」
声に出して、読んでみる。
否定しないなら付き合ってるんじゃないのか?
まぁ、別に俺が気にするような事じゃない。
貰うもんだけ貰っておけば良いんだし。
柳に「別に」とだけ返信して、新しく付けたストラップをみる。
「・・・不細工なドラえもんじゃのう・・・」
携帯をソファの上に投げて、俺は晩ご飯の準備をはじめた。
やっぱりうどんにしよう。
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