今日はお母さんが神奈川に帰ってくる、楽しみでしょうがない。

もう今頃はきっと、帰ってきてるはずだ。

今日は授業が終わり次第早急に家に帰ろう。

そんな事を思いながらお弁当の袋を取り出す。

丁度お箸を構えた所で、精市が私の前の席の椅子を引き出した。


「ねぇ、なんか良い事あったんだろ?」

「え!なんで知ってるの?」

「だって、ずっとにやけてるからさ、仁王と何か進展した?」



彼はそう言いながら自分のお弁当を私の机の上に置いた。

結局におーくんが好きかもしれないという事を精市に伝えたけど、勝手な事はしないでくれとお願いした。

メールアドレスも、携帯電話の番号も聞かないまま、数日が過ぎ去った。

あの、恋に落ちた日より、気持ちは大分落ち着いた。

圭子や侑士、精市に聞いてもらったのが大きかったのかな。



「会っても見かけてもないよ、におーくん」

「じゃあ何?そんな嬉しそうな顔して、俺に言えない話?」

「言える言える、今日ねお母さんが帰ってくるの」

「えっと・・・単身赴任だっけ?」

「そう、多分今頃ついて、明日にはまた戻っちゃうんだけど」

「ふーん、じゃあ久しぶりなんだ?」

「そう!だから嬉しくて、さっきからどうやって早退しようか考えてる所なんだよ」

「あはは、サボってまで会いに帰るだなんて、りんは寂しがりやなのか」

「あ、そうかもしれないね」


早退はともかく、確かになんだかんだで寂しい月日は過ごした気がする。

久しぶりに母さんに会えるのは、やっぱり嬉しい。


「早退、手伝ってあげようか?」

「え、いいの?」

「先生に、暁さんは具合が悪そうだったので帰宅してもらいましたって言うだけだけど」

「どうしよ、お願いしようかな・・・」



精市が言ったら、先生も誰も疑わない気がする。




---





「ただいまー」

「お邪魔しまーす」



結局、学校はサボらないで6時間目が終了後にすぐ家についた。

すぐ着いたはずなのに、なんでか家の前には侑士がにこやかに笑いながら立っている。

しかもいつもは制服かジャージなのに、今日はちゃんと私服で。


部活は?てか、氷帝からだったらこの時間じゃ間に合わないでしょ。

不信なまなざしを向ければ、彼はひょうひょうとした態度で「ママさん、久しぶりに会うやろ?だから、さぼってきてん」と言った。


私の今日一日の、サボるかサボらないかの葛藤を見事ぶち壊された気分になりつつ、一緒に部屋へ向かう。

鍵を開けて、家の中に入れば久しぶりに会う母さんが駆け寄ってきて、侑士に抱きついた。




「きゃー!!侑士くん久しぶり!!」

「ママさん久しぶりやん!今日も可愛ええなぁ」

「やっだー!もー!そう言ってくれるのは侑士くんだけよー」



娘のポジションを、何故か侑士に奪われた気までする。

いや、慣れっこといえば、慣れっこなのだが。




「・・・」

「りん、何ぼーっとしてるの?早く入りなさい」

「そや、早う中に入ろ」

「なんか、腑に落ちないんだけど」



なんとなく、ぶすっとした気分のままリビングに入ると母さんの大きな荷物が存在感を放っていた。

おみやげの紙袋なのだろうか、総勢10個以上はある。



「こんなに、おみやげ?誰に?」

「うん、マンションの人達に娘がお世話になってますっていって夜配るのよ」

「へー」

「律儀やなー、ママさん」

「だって、こういうのはちゃんとしておかないと、りんがもし何かあったら困るでしょ?」

「俺が居るやん!」

「ふふふ、もちろん侑士くんに期待してるし、おみやげも侑士くんにはいっぱい買ってきちゃったから!」

「ママさーん!なんやもう、褒め上手なんやからー!」

「侑士くんこそー!」



やっぱり、なんだか腑に落ちない。

2人をじーっと見るが、その視線に気付いた2人は逆に私に「どうかしたの?」という顔をした。

はぁ、と思わずため息をついてしまう。

いや、気を取り直そう、そうしよう、せっかく楽しみにしてたんだから、機嫌を悪くしてもしょうがない。



「お母さん、ご飯はどうするの?私と侑士で何か作る?」

「うーん、それも良いけど・・・今日は外食にしましょう、どう?」

「俺はさんせー」

「私もさんせー、じゃあ着替えて来るね」



自分の部屋について、制服を脱ぐ。

携帯を取り出すと精市からメールがきていたので、早々に開く。

内容は「お母さんの写メとって来て、見たいから。今日は楽しんでね」というものだった。

なんで写メなのかは分からないけど、まぁいっか。

話の種にでもするのだろう。



着替えを終えて、リビングに戻ればまるで土産物店みたいな状況になっていた。

侑士と母さんは2人でお土産を物色している。



「りん、手伝ってー、これとこれを2つセットにして、この紙袋に入れて6個つくってね、これはご近所さん用」

「はーい」

「侑士くんは、自分の好きなお土産とって、残ったのを大きい紙袋に入れといて、それはマンションの管理人さん用ね」

「おん」



言われた通りにお土産を、別についていた紙袋にまとめていく。

あれ、ていうか、私のお土産は?


「母さーん、私のお土産は?」

「りんは食べ物とかより、物の方が良いかなーと思って、だからご飯食べに行く前に買い物に行きましょう」

「やったー、服買って良い?」

「いいわよ」



食べ物のお土産よりも、服の方がよっぽど嬉しい。

これで今月のお小遣いは別の物買える!



「りん、ゴールデンウィークん時に、服とか靴とか買ってたやん!」

「夏用のワンピースは買ってませーん」

「同じようなんいっぱいあるやん!」

「いいの!いくらあっても足りないもん」



なんだか、3人でのやりとりも久しぶりで思わず顔が緩む。

嬉しいなぁー、別に侑士と2人でも上手くやってるけど、3人居ると話も弾んでいる気がするし。


服を買ってもらえるというのに釣られた訳じゃないけど、あっという間に私の機嫌は治っていた。


まとめた紙袋をリビングの机の上に更にまとめて、家を出る。







買い物をしてる途中に、私と母さんの欲しいものがどんどん増えていつの間にか侑士の両手は紙袋でいっぱいになっていた。

夕食は少し良い場所のレストランだった。

お腹もいっぱいになり、侑士が持てなくなった紙袋で自分の両手も埋まっている。


結局タクシーを呼んで、8時過ぎには家に着いた。


「・・・女のこういう所が怖いなぁ」

「え?」

「夏物のワンピース買いに行っただけやと思っとったもん」

「ごめんね、侑士くん。長野って何にも無いから、つい私も沢山買っちゃって・・・」

「ええねん、ええねんけど買い過ぎやって」



母さんの買ってきたお土産と、今日買ってきた物でリビングは紙袋の山だ。



「あー、当分買い物行かなくて良いねー」

「そうね、沢山買っちゃったわ」

「こんなようさん・・・俺、居らんかったら持てんやろ?」

「侑士くんが居るから買ったのよ。ねー」

「ねー」


侑士ががっくりと肩を下ろしたのを横目で確認しながら、私も一息つく。

沢山買い物もしたし、いっぱい食べたし、満足だ。


「あれ・・・そういえばりん、何か話があったんじゃないの?」


お母さんがお土産の袋の中を確認しながら聞く。

そうだ、その話、してなかった。

侑士の方をチラと確認すれば眉間にシワが寄っていた。



「あー、私ね、好きな人が出来たんだー」

「あらー、侑士くん?」

「あはは、違う違う、あのね」

「俺は認めへん」


におーくんの事を言おうとしたら、侑士がソレを遮った。


「え」

「仁王なん、絶対いやや」

「ふふふ、仁王くんって言うのね」

「うん」



明らかに機嫌が悪くなった侑士を見て、母さんが苦笑する。

自分専用のソファに埋もれるように座っている侑士は、天井ばかりを見つめているし。

私とお母さんは思わず目を見合わせてしまった。



「どこの人?氷帝の人なの?」

「ううん、立海の同い年の人でテニス部なの」

「そう、侑士くんとはお友達?」

「あんなん友達ちゃうし」

「あらあら」

「なんか侑士に言ってからずっとこうなの、変なの」



お母さんにコソコソと話せば、「そうみたいね」と返ってきた。

ブスっとしたままの侑士を余所に、私はお母さんににおーくんの事を伝えた。

髪の毛が真っ白で、ビックリする容貌とか、いざ伝えようと思うと彼のコトはそれぐらいしか知らないので伝え方に困ったけど。

そういえば、同じマンションに住んでて、しかも同じ階に住んでるという事を忘れてた。

同じ学校でも登下校の時間が違うせいか、全然会わないし。

その事を伝えるとお母さんのテンションが急に上がった。


「じゃあ、ご挨拶に行かなきゃね!!」

「え!」

「元々、お土産渡しながら挨拶する予定だったんだし、丁度良いじゃない!」

「いやや!」

「じゃ、侑士くんは留守番してる?」

「・・・ママさんメッチャ意地悪やん、ほな・・・行くわ」


母さんの笑顔に負けたのか、それとも何か意地になってるのか。

侑士の眉間には常にシワが寄っていたので、私は思わず苦笑してしまった。

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